講堂の奥には、三枚の絵が飾ってあった。

 三枚それぞれが、高価そうな木製の枠に縁取られている。

 額縁の下には作者の名前が書かれてあった。

(え……嘘……)

 講堂の中へ中へと生徒たちが流れていく。

 人の流れに逆らって、私は立ち尽くした。

「きゃー、アスカ先輩の絵よ! やっぱり素敵ね! ……あれ、友絵? どうしたの? 友絵!」

 いくらかはしゃいだ声で真由が問いかけてくる。

 私の眼球は、凍りついたかのように動かなかった。

 三枚の真ん中に飾ってある絵は、私の大好きな景色だ。

 青空が透けた新緑の葉。折り重なる椿の緑色。毒々しいまでに美しく存在を主張する、ツバキの花弁。

 見下ろしたようなアングルだから、立っている彼の表情は読み取れない。

 けれどもどこか寂しげで、儚げな後ろ姿だった。

 私の心の中に今でも焼き付いている、忘れられない場面。

 三枚の真ん中に飾られているのは、私がやっとの思いで描きあげた絵だった。

 私の大切な思い出……確かに私が描いた絵だ。

 ――私の絵、それなのに。