描かれた夏風

 風邪で倒れたのが絵を完成させた後でよかったと思う。

「おはよう。いよいよだね」

「うん。おはよう」

 学校につくと、真由と二人で講堂を目指した。

 朝早いというのに、学校の敷地はざわついている。

 見慣れた制服以外の人が大勢いて、違和感を覚えた。

 いつもと違う学校の空気を肌に感じて、今日は特別な日だと再確認する。

 普通科の人たちはお化け屋敷や飲食店、劇などの催しで駆け回っていた。

 芸術科の生徒は、代表選考の結果が発表される講堂に集まり始めている。

 普通科と芸術科の間には、同じ高校生だとは思えないほどの違いがあった。

 人種が違う、といえば言い過ぎだろうか。

 その人を形作る脳の中身。見るものや求めるもの。

 世界を測るモノサシが違う。

 芸術科にとっての世界とはつまり、絵画だ。

「あー、アスカ先輩が代表でありますように!」

 扉が開くのを待つ間に、真由は両手を合わせて祈り始める。

 たいていの一、二年生はすでに自分が代表になることを諦めていた。

(……自分は代表にならないと確信している、って言った方が正確かな?)