そう聞いた俺に、その子は小さな笑みを浮かべた。
「桜井 綾(サクライ アヤ)です」
「え?」
……サクライ アヤ?
あれ…その名前、どっかで…。
……なんだこれ。なんか、変な気分…。
「…あのさ、俺とキミ、前にどっかで会ってる?」
サクライ アヤ
その響きが、なんだか懐かしく感じる。
「…秘密です」
……って、なんだよそれ。
つーかそれって、「会ったことがあります」って言ってるようなもんじゃん。
「あー…と、ごめん。
マジで思い出せないんだけど、俺とキミ、どこで会った?」
胸の辺りがモヤモヤ…つーかムズムズする。
だから素直に聞いてみるけど、綾ちゃんはさっきと同じように小さく笑う。
「…桜庭さんが私のことを思い出したその時に、何かご馳走してください」
「え?」
「飲み物も今日はいいです。
また今度、よろしくお願いします」
「あ、ちょっと…綾ちゃんっ…!?」
……あーあ、行っちゃった。



