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「ほら、立てるか?」
「うん、ありがと…」
涼が私の手を引き、私の身体を立たせた。
まだ身体に上手く力が入らなくて、足元がふらつく。
「ちゃんと歩けよ。そんな腰抜かしたみたいな格好で帰れんの?」
「なっ?!だっ、だって…涼があんな…エッチなことするから……」
語尾がだんだん小さくなる。
「エッチなことじゃなくて、
しただろ?最後まで」
「もう、そんな風に言わないでよ恥ずかしい!」
「なんだよ、俺の初めてが欲しいっつったの咲じゃん」
「は?!最初に言ったのは涼でしょ?!」
涼が私の手を引いて、私たちはひと気のない実験棟を出た。
気が付いたら、外はもう薄暗い。
「明日の日曜どうする?どっか行く?」
「え、涼レポートは?」
「んなもんもう終わったよ。
夏休み、咲といっぱい過ごせるように俺がどれだけ努力したか知らねーだろ」
どこか誇らしげに涼は言った。
…だからそんな詰めて勉強してたの?
私と夏を過ごすために……?
「なに笑ってんだよ」
「別に、何でもない」
とか言いながら、顔がほころんでしまう。
涼が私の身体を軽くどついた。
…変なの。
18年幼なじみしてるのに、初めて見る涼の表情がいっぱい。
笑った顔も、怒った顔も、エッチな涼も……
あんな小さかった涼がいつのまにか、こんな男らしくなっちゃって。
……涼、
これからも一緒に、
“初めて”を積み重ねて行こうね。
「…帰ったら、もっかいする?」
涼が耳元で囁く。
「バカ、このどエロ!」
「どエロって…咲だからだよ」
「?!」
お向かいに住む、5歳年下の幼なじみ。
大学生の涼と、社会人の私は恋人同士。
今日私たちは、お互いの“初めて”を捧げあった。
…余談だけど、
今から約4年後、涼の大学卒業と就職祝いとして、
私たちは結婚することになる。
涼は、思惑通り私を嫁にもらい、私の旦那さまとなるのだけど……
……まぁそれは、まだまだ先の話。
だって私たちは、まだ始まったばかりだから。
夢に見ていた甘いスパイス。
…私たちは、これから始まるのだから。
-END-