「咲ー、ちょっと」
その時、お母さんが階下から呼んだ。
「なに、どうし…」
階段を降りると、玄関先に涼のおばさんが立っていた。
「真由美さんが、咲に頼みたいことがあるって」
「ごめんねぇ、咲ちゃん、お休みなのに。
涼が今日提出しなくちゃいけないレポート、家に忘れていって。
届けてくれって連絡あったんだけど、私これから町内会の集まりに行かなくちゃいけなくて。
咲ちゃん、これを涼に届けてくれないかしら?」
そう言っておばさんは、大きな封筒を差し出した。
「え、わ、私…?」
「いいでしょ咲、どうせ家でゴロゴロしてるだけなんだから」
お母さんが横から口を出す。
「わ、分かりました…」
「ごめんねぇ。じゃ、これよろしくね。
K大、行き方分かる?」
「あ、はい、大丈夫です」
私は封筒を受け取ると、涼の通う大学へ向かった。
ーーーーーー…
“すご……ここが涼の大学…”
涼が通う大学の門前で、私はポカンと口を開けた。
大きくて、立派な門。
土曜なのに、学生と思われる若者が行き交う。
“大丈夫かな…私、浮いてない?”
私は肩身のせまい思いで門をくぐった。
大学敷地内は想像以上に広く、迷路のようだった。
私は怪しまれない程度に辺りを見回す。
…涼、どこにいるんだろう?
電話しても出ないし…まさかまだ怒ってる…?
とりあえず私は敷地内を進んだ。
どこかに受付みたいなところがあるはず。
そこで涼を呼び出してもらうとか、レポートを預けるとかすれば良いんだ。
「あれ?涼の彼女さんじゃないっすか?」
その時。
突然声をかけてきたのは、あの日涼の家を訪ねてきた涼の友達だった。

