ー黒陽ー



「カナさん、私は死神ではありません。まあ、人間からしたら同じかもしれませんが」


そういって私のほうへ一歩近づいた

長くウェーブした黒髪と、黒いドレスが揺れた


思わず身構える


「私は、死を看取る者。死を迎える人間に会い、死の瞬間を見届ける。“黒陽”(こくよう)という部類の者です」


「こく、よう…?」


聞きなれない言葉



「人は、光なしでは生きていけないのです。植物と同じく、太陽の光からもパワーを貰い、生活しているのです。それは、死してからも同じ」


アリスと名乗った女の子は
自分の着ている黒い、レースのドレスの裾を少し持ち上げる




「人の死の色は、黒。私たちは、死した魂が迷わないよう導く存在。死した者たちの太陽。そういった意味が込められ、"“黒陽”と呼ばれています」




黒の、太陽…

死を導く…



さっぱり理解できない




意味不明な、理解に苦しんでいるのが顔に出てしまったのだろう


黒い女の子は少し悲しそうな顔をした




「わからない、ですよね。無理がありません。自分の死と、そして黒陽の私の存在で混乱するのは当然です。…ですが」



顔をあげ、私をひたと見つめる




「なにがどうあっても、もう、未来は変えられません」




また、鳥肌がたった


変えられない未来


「私、死ぬんだ…」


彼女は、私を迎えに来たんだ

私を、この終わらない
死の直前から脱出させるために




「…ですが、あなたの死により、変わった未来もあります」



アリスは横へ一歩ずれた