ー黒陽ー



目の前を幼稚園くらいの、黄色い帽子を被った男の子とお母さんが通りすぎる

すごく、可愛らしい顔をした男の子だ


そのお母さんは数歩先で別のママ友とバッタリ。


男の子は軽くお母さんのママ友に頭を下げたあとつまんなそうに辺りをキョロキョロしだした

お母さんは話に夢中だ


…こうやって冷静に人間観察も面白い


あの男の子が あまりのつまらなさに
拗ねて泣き出さなきゃいいけど



パッと奥の歩道をみると、サキがいた

こちらに向かって歩いてくる


いきなり、心臓がバクバク言い出した


ただ、プレゼントを渡すだけなのに、
なんで私が緊張しているんだろう



サキは、まだ私に気づいていない


私はそっとプレゼントを背後に隠し、平静を装う

さっきのイメトレがある
大丈夫。絶対うまくいく!
絶対サキは驚く!!




その時急に、強い風が吹いた


ふわりと舞い上がりそうになったスカートを押さえる


横のお母さんたちは風なんて気にせず、お喋りに夢中だ


ふと、先ほどまでいた男の子が見当たらないことに気付いた



「あのこ…?」





黄色い、男の子の被っていた帽子が
ふわりと車道に着地した

「うそ」

さっきの風で飛ばされた帽子?



男の子はその帽子を拾おうと車道へ飛び出す


鳥肌がたった



必死に帽子を追いかける男の子

気付かない母親


そして……



「だめっ…!!!!」



気付くと体が勝手に動いていた



帽子を拾う男の子


私は勢いよく、男の子を突き飛ばした


全てがスローモーションのようで

時が止まったみたいで



男の子は地面に転がり

反対側の道路にサキが見えた


すごい、顔だ

すごく、すごく驚いている表情



なんで?


私が子供を助けたから驚いているの?


すぐ横に、トラックが猛スピードで迫ってきて…


止まっている



え?


止まっている?




そういえば

「動かない…」



体が、動かない





「まだ、続けるのですか」