ー黒陽ー


私には自信があった

カナさんの怯えるような目は
本当に悲しかったけど
私には叶えたい夢がある

だから、どんなことがあっても流されない
きっと死を看取れると


そう…私の仕事は、ただ、
人の死を見るだけ

他人の、死


そんなものに情が移るとは思えなかった


そして私の担当の
“事故死”


これは“殺人”担当の人たちよりマシだ

あの課は、本当に酷いらしいから



だから私は平気だと
自信があった








なのに









「あなた、名前は?」


ひとしきり泣いた後
突然低い声で訪ねてきた


「えっ…」


「名前は?」




たしか、“黒陽”のマニュアルでは
名乗ってはいけない、とは書いていなかった



「…アリス、です」


「アリス…」



カナさんは私の名前を呟いた後
うつむいて、しばらく黙っていた



私はその正面に立ち、
ただただ
カナさんを見ていた



ふと気がついて
私の後ろに倒れている
痛そうな表情を浮かべる子供を見た





本来なら私は、
この子の前に現れ
この子の死を看取ったのかもしれない


でも
私が看取ることになったのは、
カナさんだった



急いで飛び出したから
お友だちに渡すはずだったプレゼントは空中に投げ出され

もうあと数センチで
コンクリートに当たりそうな所で静止している



私は顔を歪めた



カナさんの勇気ある行動が
一人の命を救い

大切な友人の前で
自らの命を落とす




今日は、その大切な友人の誕生日



そんな日に …