信長は 
煙の漂ってくる中で

菊を 
きつく抱きしめた。



「逢いたかったぞ


そなたに……

すまなかったな。菊。


辛い思いをさせて」



周りを
窺う家臣が


「ひとまず お逃げを!」


と緊迫した声で言った。


「うむ。帰るぞ!
我が尾張の国へ!」


そう言って菊を両腕に

抱きかかえて
あらかじめ

用意していた逃げ道を目指し


信長は 
裏口から


目立たぬように
栃尾城を
出て行った。