信長の吐息が
菊の耳にかかった。
「ぁ」
菊は恐れながらも
だんだんと
信長に惹かれてしまう自分に
戸惑っていた。
信長は
熱い抱擁のあと
菊の体を離すと
菊の髪を
優しくなでる。
「菊
そなたは、ここにおれば
良いのじゃ。
わしの隣におれば良い。
余計な事を申すな。
でなければ」
信長は懐に入れた短刀に手を添えた。
菊はそれを見て
ごくりと
今度こそ、切られるかも……と思い
唾をゴクリと飲み込んだ。
信長は短刀を鞘から
すばやく出して
菊の後ろに
咲いている銀梅草を
ひとつ鮮やかに
切り落とし
それを
菊の髪に
髪飾りのようにさした。


