「おお! お玉!
おったのか! 菊は どこじゃ?」





信長は馬から弾むように地面へ下り立つと輝くような笑顔を老婆に向けた。





「お屋形様、毎日毎日この婆婆の所においでになるとは、よっぽど暇だとみえますなあ」
玉は溜息混じりに言った。




「ふん。どうとでも申せ!
菊に渡すものがあるのじゃ」




いくらか頬を紅くした信長の手には白いホタルブクロの花が数本握られていた。



「それを、お菊に?」
玉は、珍しいものを見るように信長を眺めた。



「そうじゃ」
満足そうに微笑む信長。



信長はあちらこちらに視線を向けながら菊を探しに山へ入っていった。



「まったく
大層、御執心じゃのう」



玉は、信長の後ろ姿を 
微笑んで見送った。