あいつがいた。

俺の姿を見た途端、あいつは泣き出した。

「どうしたんだよ?奈々?」
俺にすがりつきながら言った。

「だって・・・もう名前を呼んでくれないと思ってた。もう会えないと思ってた。もう・・・抱きしめてくれないって思ってた。」

「そんなわけねーだろ。」
そう言うと俺はぎこちなく奈々の頭を撫でた。


「だって・・いつも加藤くんと前田さんが一緒に帰ってて、見かけるとき、いっつもそばにいて・・・付き合ってるって噂も聞いたから・・・。」


女って恐ろしい。
こんなところにまでもう噂が広まってるなんて。


「違う。あいつとは付き合ってねーよ。」
「じゃあなんで!?」
突然奈々が大きな声を出した。


「なんで・・・キスしたの?」