「だいたいあんたさ、あたしのこと“お前”呼ばわりすんなよ」

「お前だって俺を“あんた”呼ばわりしてんじゃねーか」

「それはあんたがあたしを…」

「お前が俺を…!」

「黙れェェ!!」


突然のガナリに思わず息を止めたあたしとヤツ。

声の主は保険医の寺島 香苗だった。


「…香苗ちゃんびっくりさせないでよ」

「ガヤガヤうるせーんだよ。喧嘩すんなら黙って殴り合いしとけ」

「寺島、それ間違ってるから。しかも普段とキャラちげーし」


そうだ。

普段の香苗ちゃんはキャピキャピした可愛らしい保険医を演じているが、あたしらみたいなサボリ魔の前では素を見せる。

今みたいなヤクザもどきが素顔なのである。


「…だいたい寺島は授業行けとか言わねーよな」

「言ったらてめェら行くのかよ」

「行かねー」
「行かない」

「…ほら見ろ。言うだけ無駄だっつーの」


よく分かっていらっしゃる。

まあこんな先生だからこそ、学校に来てもいいかな、なんて思う。

それはヤツも同じだと思う。


「あー…女子ってなんであんなネチっこいんだろ。マジうざい」

「ハァ?女の全部が全部ネチっこいと思っとんなよ」

「安心しろ、寺島。お前は女子にも入ってねーから」


サラッとひどいことを言ったつもりだったらしいが、香苗ちゃんの耳はそれをしっかりキャッチし、ヤツの胸ぐらを掴んで威嚇している。


「まあまあ香苗ちゃん…」

「おっ、お前寺島を止めてくれんのか!いいとこあんな…」

「ほどほどにボコしちゃって」

「御意」

「御意じゃねーよ!マジ許さねー…!覚えてろよ、女!」

「ハイハイ」


あたしはこれからほどほどにボコされるヤツを置いて保健室を出た。