センチメンタルブルー

ヒマワリ、トルコギキョウ、かすみ草、スプレーバラ。
男性にあーだこーだと私のうんちくを言いながら選んでいく。
無知すぎる彼には、私がここで覚えた花の知識がぐんと役に立つ。

「じゃあこんな感じで作っていきたいと思います。あっ、忘れてた、こちらお持ち帰りですか?それとも配送をご希望ですか?」

「あ、今日持って帰ります…。どれくらいで出来上がりますか?」

「そうですね、30分くらいでお作り致します」

「30分後くらいにまた来ればいいんですね?」

今はまだ哲夫さんは花の競りから帰ってこないし、予約の花は好美さんがまとめてくれているし、私がすぐにできるだろう。
30分後に取りにきてもらうことにして、会計を済ませる。

「はい、五千円確かにいただきました。お名前とご連絡先を頂戴してもよろしいですか?」

「月本夜空です」

「ツキモト、ヨゾラさま…っと。夜の空で夜空さまですか?」

「はい、そうなんです。珍しいでしょう」

なんて素敵な名前だろう、と思った。
私は夏の夜空が大好きだ。都会のせいで星はほとんど見れないけれど、夏の夜空が写し出す花火の色や、蒸した空気と、なにもかもが好きだ。

「素敵な名前ですねぇ。月本って名字もこれまた…。私なんて山田ですよ、や ま だ」

「下のお名前は?」

「さとみです。まぁ気に入ってるっちゃ気に入ってますが…お客さんには負けます」

「ふふ、恥ずかしながら俺も自分の名前は気に入ってますね。ファンタジーっぽいけどね。あ、電話番号は……」

話をしているとちらほら客が増えてきた。
宮沢さんが今日はおやすみだから、好美さんが接客していると

「とみちゃん、おねがーい!」

と頼まれたので、急いで月本さんとの接客を終わらせる。

「はーい!では月本様、30分後に!遅れそうならばこちらからご連絡させていただきますので!」

「遅れてもかまわないので、よろしくお願いしますね」

月本さんは涼しい店内から灼熱の太陽の下へ消えていった。

私も急いで他の接客につく。
この人が終わったら、月本さんの花をつくろう。