昨夜は夜空くんのことを考えていたら次第にまどろみへと落ちてしまっていた。

いつものように出勤して、花を並べる。
今日は夜空くんが花を買いにくることはないだろう。

「とみちゃんおはよう。昨日は忙しかった?」

一緒に花を外に出している宮沢さんに声をかけられた。

「いやー、昨日はあんまり忙しくなかったですね。宮沢さんは昨日なにしてました?」

「ずっと寝てた。休日っていっても暑いしなにもやる気が起きなかったわ」

彼がいるのにずっと寝てたのか。
宮沢さんはいい意味でテキトーで、私にとってはとても居心地がいいのだ。
私だって休日は寝るか食べるかしかしないのだから、あまり変わらないのだけれど、デートという選択もできるだろうに。

「あ、今彼氏とデートしないのか?って思ったっしょ。休みが合わないからお預けだよーん」

見破られていたらしい。


今日もカンカン照りで、あまりに暑い。そのうえ暇だ。
私は涼しさを求めて冷蔵庫のガラスにへばりついていると

「いいもの買ってきたよ」と哲夫さんがやってきた。

競りの帰りで見つけたいいものとは、金魚が描かれている風鈴だった。

「わあ!かわいい。風情が出ますねぇ」

「そうでしょう。これを店の入り口に飾ってみよう」

入り口に風鈴をつける作業を横からずっと見る。飾ってみるとますますかわいい。
しかし、風が吹かないため風鈴はいい音色を聞かせてくれない。

「チリンチリン言わないですね……」

「んーむ、こう風がないとね。気長に鳴るのを待とうか」

ガラスの風鈴は太陽の光でキラリと光って眩しいほどだ。涼やかな音色を聞かせてくれるのを楽しみにしている。

「夏なんですねえ」

「夏なんだなあ」

ほんとにこの店は。働く人々の時間がのんびり流れているから、私は好きなのだ。



平凡に時間はすぎても、哲夫さんが風鈴を買ってきても、頭のすみっこには夜空くんがいる。

仕事が終わったら、思いきって電話をしてみようかな。
電話しないと、話ができない。偶然見かけることなんてできないだろうし、次の約束もこぎつけたいし、とにかく私が行動しないとダメなのだ。