部屋に入る。暗闇が私の指ひとつで明るくなる。部屋のスイッチを押した。

見渡せばサボテン、ドラセナ、プーミラ、数々の植物がこちらを向いた気がした。
私は、家族がいることに安心感を覚える。


ワンルームの狭い部屋の中は35度を越えているのではないかと思うほど蒸している。
窓を開けて、扇風機をまわした。

夜空くんと話せて、本当によかった。
それを遡るならば、夜空くんが今日店に来てくれてよかった。

毎日朝起きて仕事に行き、家に帰りぐうたらする。
そんな毎日の中で出会いが生まれることなど皆無であった私の生活。
言葉ひとつであんな風に出会いがあるのならば、私は友達100人できるかなの仲間入りになれたのかもしれない。

だけど冷静に考えて手当たり次第声をかけるなんて出来る筈もなく、だからこそ私が今日夜空くんに声をかけたのは運命だったに違いないのだ。

命が運ばれてきた。私の心の中に運ばれてきた。
だから私の命も運ばれた。夜空くんの中に運ばれた。


「今日は本当にありがとう。夜空くんと話せて本当によかった。
帰ってから植物たちを見て、彼らが家族だと思えたのはあなたの言葉があったからです。
よかったらまた花屋にもきてください」


メール画面に打ち込む。
アドレスの欄は空白。送りたい相手はいれど、送るアドレスがない。
私はため息をついた。

先ほど夜空くんからもらった電話番号が刻まれたレシートを取り出す。
家の電話番号。
それを携帯に登録した。


月本 夜空。


さすがにもう遅いから、電話をかけるのはやめよう。
もしかけて着信に気付いたらかけ直してくれるかな。
ああそうだ、着信履歴が残る電話使っているのかな。

もどかしい。
家の電話にかけるって、考えるだけでドキドキする。
中学の頃もドキドキしたっけ。


私、もう、夜空くんの声が聞きたいんだ……。