私はこれと言って趣味がない。
強いと言えば、家で育てているサボテンやワイルドストロベリーに水をあげたり話しかけること。

「優しい性格だねさとみちゃんは。それに、家族がいっぱいいて楽しいね」

夜空くんはそう言った。
植物は確かに生きているし、私が水をあたえなければ枯れて死んでいくが、それらをまるっと「家族」と言った夜空くん。彼は本当に純粋な人だ。

気がつけば二時間があっという間に過ぎていた。

「そろそろ行きますか?」

「そうだね。さとみちゃん、家まで送るよ」

家まで送る=うちにも上がる?
勝手な方程式が浮かぶ。二時間しか話していないと言えど、夜空くんはそんな邪な考えを持って言ってるとは到底思えないので、一度断ったけれど私はそれを受け入れた。


会計を済まして、静かな裏通りを二人で歩く。

「夜空くん、今日はほんとにありがとう。私突然あなたを誘ったわけだけど、その理由が自分でもわからないけど、あの選択はミスじゃなかったみたい」

「俺もさとみちゃんから誘われて最初は本当にビックリしたんだけど、なんでかな。不思議と嫌な気持ちがなかったんだ。実際話してみてすごく楽しかったしね。これも運命のひとつなんだと思うよ」

街灯の灯りの下、野良猫が私たちの足音に驚いて逃げる。
それくらい静かな帰り道、彼は運命という言葉をさらりと口にする。

「運命、か」

「運命って、命が運ばれるって書くじゃない?俺、それって言い得てると思うんだ。実際俺とさとみちゃんの命があの花屋さんに運ばれてこうなったんだよ。運命って、そうゆうことだよ」

「そう言ってもらえると、なんだか照れ臭いね」

「あー、ごめん。実は俺はああいう飲み屋も好きだけど、こういう二人だけの帰り道や静かな空間の方が、言いたいことが言えるんだ」

夜空くんの言うように、私と夜空くんの命が偶然この町で同じ時間に運ばれてきたことが運命ならば、夜空くんとはこれからもずっと一緒にいれそうな気がする。
私の解釈は彼の運命論とはずれているのかもしれないけれど、そう思った。

そうして私のアパートの前に着く。

「私、ここに住んでるの」

「無事に見送ることができました」

「夜空くん携帯持ってないから、これからどうやって連絡とればいいかな…」

ぽろりと本音が出る。

「不便なことも、あるっちゃあるね。携帯ないと。俺の家の電話番号、さっきのレシートの裏に書くからもらってくれる?」

「いいの?欲しい」

さらさらとレシートの裏に番号を書いて、私に渡してくれた。

「それじゃあね。さとみちゃん、また」

「夜空くん、おやすみなさい」

夜空くんは元きた道を戻り、自分の家路へと向かっていった。