センチメンタルブルー

一通り接客を終えて、さっそくアレンジにとりかかる。
オアシスと呼ばれる花を刺すスポンジをしっかりと湿らせて、主役になるヒマワリを真ん中から飾っていく。

「好美さん、これ頼んだお客さんの名前が夜空っていうんですよ」

「あら珍しい」

「ですよね?しかも名字に月が入ってるんです。きれいですよね~」

「最近は難しい名前や特殊な名前つける親が多いからねぇ、その一種じゃないの?」

確かに最近の子供は読めない読み方や特殊な名前の子が多い。
でもなんだろう、月本さんの名前だけはそんな気がしない。それは彼の雰囲気が自分好みだから擁護してしまっている部分もあるのだろうか。

いや待て。私は今好みだと思ったのか?
違う違う、好みとかそういうんじゃない。ただなんだかあの人に合っているなぁって。ただそれだけ。

この二年間、数えきれない程のお客さんを接客してきた。
おばさんもおじさんも、新婚さんも、お子さんも。
たくさんの花がたくさんの人の元へ運ばれる。しかも、私が作った花束が。
それがどれほど嬉しいと感じたか。

ある意味、私の作品が届けられて、喜ぶ人が必ずいる。
花というのは、本当に素晴らしい。

なんだか初心に戻り始めた頃、アレンジも終わっていた。

「よーし、できた。哲夫さんそろそろ戻ってきますよね?」

「戻ってくるよ。今日はいいカサブランカが入ったみたいよ」

「ひゃー!楽しみだけど花粉がめっちゃつくー」

「とみちゃんにまかせよーっと」

好美さんに意地悪を言われた時「すいません」と月本さんが来店した。