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あたしが、ハイヒールを鳴らして歩きたいのには、ちゃんとした理由がある。
それは、この靴の音は背筋を伸ばし歩かないと鳴らないから。
どんなに落ち込んだ時も、投げやりになりたい時も、背筋を伸ばせば自然と気持ちも前向きになる。
そしてハイヒールの音で、あたしの気持ちはまた奮い立つのだ。
だから、こだわってハイヒールを履き、音を鳴らしているのだった。
今日から、とうとう専務秘書の仕事が始まる。
今日も、気持ちを奮い立たせる為にハイヒールを…。
と、思ったのに、
「鳴らないじゃんここ!」
専務専用の部屋があるこのフロアは、床に絨毯が敷かれていてヒールが食い込んでしまう。
窓もなければ専務室しかない廊下なのをいいことに、あたしは何とか音が鳴らないかと、力を込めて足を振り下ろしていた時、
「お前、何やってんだ?」
背後から、低くてどこか色気のある声が聞こえて固まる。
ま、まさか…。
ゆっくりと振り向くとそこには、ネットで公開されている写真の顔と同じ人が、怪訝そうな表情で立っていた。
「せ、専務!?」

