「遅いじゃないか」
あたしに近付くと、いつもの軽い調子でそう言った。
「すいません…」
思わず目をそらして俯く。
どうしよう…。
招待状、今渡そうか?
だけど、なぜだか反応が怖くて、どうしても渡す勇気が出ない。
「どうした?美月、何か様子が変じゃないか?」
ドキッと緊張が走り、自分でも顔が強張ったのが分かる。
「そんな事ないです…。それより章人専務、あたしたちも戻りましょう」
どうしても専務を直視出来ず、避ける様に歩き出すと、容赦なく腕をつかまれた。
「何でもないわけないよな?言えよ。何かされたか?」
「何か…?」
ゆっくり振り向くと、あたしは専務を見つめた。
「章人専務は、あたしが何かをされたと思ってるんですか?」
「何だよ、その言い方」
専務が、あからさまに不機嫌になるのはもっともで、あたしの言い方はまるで見下している。
「男女が二人きりでいるからって、当たり前の様に何かあるなんて思わないでください」
なんて、偉そうな事を言ったけれど、簡単に専務に体を許したあたしに説得力はない。
だけど、言わずにはいられなかった。
それだけ、専務の過去が心に突き刺さったから…。

