今朝言った事、一体どこまでが本気なんだろう。
専務の意味深な言葉のお陰で、今日は一日中仕事が手につかなかった。
すっかり街の明かりがネオンに変わった頃、支度を終えた専務が秘書室へやって来た。
「美月、用意はいいか?行くぞ」
「はい…」
社長も出席の今夜の接待は、もちろんこちらがされる側。
子会社の社長が、もてなしてくれるのだけど…。
「あの専務。今夜お会いになる社長も、真辺っていうお名前なんですね?」
真辺和久(まなべ かずひさ)。名字が専務と一緒だ。
事前にファックスでもらった連絡票に、その社長の名前が書かれている。
「そうか、美月は知らないんだな」
「何をですか?」
「その和久は、オレの弟だ」
弟!?
「専務って、弟さんがいらっしゃったんですか?」
「ああ。二歳年下のな」
ネクタイを直しながら、素っ気なく答えると、部屋を出て行く。
「ほら、美月!ボーッとしてないで行くぞ」
「は、はい」
知らなかった。
専務に弟がいたなんて。
噂でも、全然聞いた事がなかったわ…。
だから、今朝社長が堅苦しい接待じゃないって言ったんだ。
章人専務の弟…。
どんな人なんだろう。
楽しみな様な不安な様な…。

