専務室に響くあたしたちの甘い吐息…。
こんなにまで、唇を離せないのは何でだろう。
後で、後悔するのは分かりきっているのに…。
「美月もノリノリじゃん」
ゆっくりと離れた専務は、あたしに意地悪く言った。
「違います…」
「何が違うんだよ?」
おでこを軽くぶつけて、あたしの顔を覗き込む。
そんな専務の顔を見上げながら、心臓はまだドキドキしていた。
「章人専務のキスって、何も考えられなくなるんです。自分が自分じゃなくなるっていうか…」
どちらかと言えば、地味めなあたしの人生に、こんな刺激的なキスは無縁だったから。
「だから、ノリノリなんかじゃないんです。自分でも、気持ちが分からないんですから…」
すると、専務はあたしを抱きしめて言った。
「それをノッてるって言うんだよ。なんだか、夜が待ち遠しいな…」
そうなんだ…。
そういう気持ちを、“ノる”って言うのか…。
って、ちょっと待って!
夜が待ち遠しいって、どういう事!?
ハッと我に返って、専務の体を押し返す。
「章人専務。一度、ちゃんと言おうと思ってたんですけど」
「どうした?」
キョトンとした顔で、あたしを見つめる。
「ハッキリと言います。あたし、章人専務と体だけの関係を続けるのはイヤなんです」

