すると、突然歩くのを止めた専務は、振り向くと不満そうな顔をした。
「専務、専務と大声で言うな!」
「えっ!?」
なんで、あたしが怒られるのよ。
「周りに見られるだろ?プライベートで、あまり言われたくないんだよ」
そんなぁ。
「だったら、ここで解放してくださいよ。あたしには上司なんですから、“専務”以外の言葉で呼べません」
だいたい、プライベートまで一緒にいたくないんだから。
すると専務は、明らかに顔を引きつらせると言った。
「章人。プライベートでは名前で呼べ。業務命令だ」
ムカつく~!
まさに、噂通りの俺様だわ。
「業務命令ですか?今が業務中なら、名前で呼ぶ必要はないと思いますが」
こっちも負けじと睨みつけると、専務は突然笑ったのだった。
「美月、お前マジで最高。そうだな。業務中だ。じゃあ、業務命令。今日はオレが美月を送る」
「えっ!?」
「上司命令だ。いいな?」
もう~!!
うまく言いくるめたと思ったのに、それを逆手に取られてしまった。
もうそれ以上抵抗する気も失せて、ガックリと肩を落とす。
「分かりました…。早く駐車場へ向かいましょう」

