「待てよ。送るから」
ドアノブに手をかけたあたしを止めて、専務は淡々と言った。
「送る?けっこうです」
なんて図々しい。
無理矢理、キスをした挙げ句に送るだなんて、なんて神経してるのよ!
次こそ最後まで襲われるわ。
そもそもあたしが、こんな変身をしたのが間違いだった。
明日からは、いつも通りポニーテールの自分に帰ろう。
「送るって。行こう」
「あっ!!」
専務はあたしの手を取ると、そのまま店内へ出る。
人の話しを聞いてる!?
呆気に取られたあたしは、そのまま引っ張られるだけだった。
お得意様の接客中だった志帆さんは、専務を見るとこちらへ駆け寄ろうとした。
だけど、専務は黙って手で制すると、親指を立てドアの方を指し、“帰る”のジェスチャーをしてお店を出たのだった。
そしてあたしは、志帆さんにちゃんとお礼を言えないまま、簡単に頭を下げるだけだった。
「専務!手を離してください!」
すっかり暗くなった街はネオンが光り、昼間とは違った明るさで照らされている。
人の間を器用に縫いながら、専務は足早にあたしを引っ張り歩いていた。
「専務!!聞いてますか!?」

