焦げ茶色の革らしきシートは、座ると体がすっぽりと沈む。
専務くらいのタッパのある人ならサマになっているけど、あたしの体は完全に埋まっていた。
軽やかにハンドルをさばきながら、専務はご機嫌そうな顔で、車を中心街へと走らせたのだった。
「なあ、美月。オレの行きつけの店でいいか?それとも好きなブランドがある?」
「ブランド!?いえ、ありません…」
むしろ、量販店に売られている靴でもいいくらいなのに。
「本当?じゃあ、オレの行きつけの店な」
「はい…。お願いします」
あまりにも楽しそうな専務を見ていると、これ以上拒否は出来そうもない。
どんなお店に連れて行かれるのか緊張するけれど、黙ってついて行く事に決めたのだった。
「そういえば専務。ずっと、言おうと思っていたんですけど」
「なんだ?」
チラッと視線をあたしに向ける。
それにしても、左ハンドルの車なんて初めて乗るから、この位置関係に違和感があるわ。
「あたしの事を、“美月”って呼ぶの止めてくれませんか?」
朝からそう呼ばれているのが、実は気になっていたのよね。
違和感いっぱいだというのに、専務はキョトンとした顔で言ったのだった。
「何でだよ?いいじゃないか。名前で呼んだ方が親近感も湧くだろ?」

