いけない、いけない。
一度、控え室に戻る途中、章人にボヤかれてしまった。
「美月、秀二に見とれてたろ?オレには分かったよ」
「ご、ごめん…。だって、つい…」
二人のわだかまりは消え、章人と秀二さんは“友人”として、いい関係を築けている。
だけど、二人とも未来の社長。そこには、複雑なしがらみもある。
もちろん、企業秘密めいたものは、たくさんあるみたいだけれど、足を引っ張り合うのではなく、お互いの成長の為にいい関係を築く。
そういう約束を、したらしかったのだ。
それを聞いて、二人を尊敬した。
そして、章人にますます惚れ直しちゃったんだけどな。
「ったく、どいつもこいつも秀二がかっこよく見えるのか」
薄いグレーのタキシードから、着物へ着替えた章人はため息を漏らした。
あたしは、お腹を締め付けない程度の薄いピンクの着物を着る。
着物といっても、少し洋風な感じの“オーガンジー”と呼ばれるものだ。
「もう!蒼衣さんの話?そうやって、すぐ思い出すんだから」
「お前が思い出させてるんだろ?」
あたしより断絶むくれ顔の章人に、笑いが出てしまう。
そしてそんなあたしを見て、章人は呟いたのだった。
「あ~あ。早く籍を入れに行きたいな。落ち着いていられない」
「何よそれ。今さらじゃない」
ますます笑うあたしの頬を、章人は軽くつまんだ。
「オレは、早くお前と本当に結婚をしたいんだよ」
「それは、あたしもだよ。式が終わったら、婚姻届を提出しようね」

