すると、蒼衣さんは首を横に振ったのだった。
「ううん。お陰で私は心の整理が出来たから。あの日ね、章人にまだ好きな自分の気持ちを伝えたのよ」
「そうだったんですか…」
「うん。だけど、呆気なくフラれちゃった」
バツ悪そうな笑顔で、蒼衣さんはあたしを見た。
ソファーに浅く腰掛けている蒼衣さんは、ケーキを一口食べて、恥ずかしさを誤魔化している様だった。
「フラれたんですか!?何で!?」
って聞くのも変か。
言った後で、少し反省。
「章人の心には、その時は美月さんしかいなかったの」
「え…?」
あたしはてっきり、まだ章人が心のどこかで、蒼衣さんを好きなんだと思っていたのに。
「それでもね、未練があった私は、正直に秀二にも全てを話して、婚約を解消してもらった」
ゆっくりと、だけど真剣な口ぶりに、あたしも気が引き締まる。
「だけど、秀二は私を好きでいてくれて、もう一度最初からやり直そうと言ってくれたわ…」
そこまで言うと、蒼衣さんは左手薬指を、あたしに見せた。
こぼれそうなくらい、大きなダイヤが光っている。
「秀二の優しさに、私はようやく大事な人が誰かが分かったの」
「じゃあ、今度の結婚は、本気で秀二さんを好きでされるんですね」
あたしの言葉に、蒼衣さんは頷く。
「そう。秀二と章人も、お互いの気持ちをぶつけ合えたみたいだし…」
蒼衣さんの笑顔を見ていると、ようやく全てのわだかまりが溶けた気がする。
もう何も、不安に思う必要なんてないんだ。
「美月さんの指輪、とても素敵ね。よく似合ってる」

