すると、進みかけた足を止め、専務はゆっくりと振り向いた。
「ハイヒールしかない…?」
「は、はい…」
怒られる?
ビクビクしながら、あたしは上目遣いで見た。
すると、ため息をついた専務は、あたしにとんでもない事を言ったのだった。
「じゃあ、後で買いに行くか?靴を買ってやるよ」
「ええっ!?」
そんなサラっと言われても。
すっかり度肝を抜かれたけれど、キッパリと応えた。
「遠慮します。そんな事をしていただく理由がないので」
「理由?理由ならあるよ。お前、それじゃ歩けないって」
「大丈夫です!ちゃんと歩きますから」
変な意地を張り、そう言い切ってしまう。
「だけど、後で絶対に後悔するって」
「本当に大丈夫ですから!それに、無理そうなら、今日の仕事帰りに買いに行きますので」
靴を変えるのは仕方ないにしても、それを買ってもらう理由はない。
さすが、女癖が悪いだけあって、お金も簡単に貢ぎ込むってわけね。
あたしの鼻息が荒い様子を見て、専務は呆れた顔をした。
「知らないぞ?オレは忠告してやったからな」

