そう言って君枝を指さす。老女は何も聞こえていないかのように、ゆっくりと箸を動かしていた。
「え、そのお婆さんが作った?いや、でもその人ボケ……あ、いけね、その」
「ああ、気を遣わないで。そう、普段は十分前の事も思い出せないのに、郷土料理の作り方だけはプロ顔負けなのよ。鮭の煮汁でご飯を炊くのって結構難しいのよ。あたしがやるとご飯粒が生臭くなって食べられたもんじゃなくて、未だにちゃんと作れた事がないわ」
「はあ、それなのに作れるって。人間って不思議だな」
そこでまたフミじいさんが口をはさんだ。
「その婆さんは生まれも育ちもこの地方だ。いくら頭がボケてたって、ガキの頃から食ってきた味は忘れられるもんじゃねえ」
食事が終わり食器が片づけられ、6人そろってお茶をすすっている時に、ふと思い出したという感じで吉川が明に訊いた。
「ところで明君。まだバイク買いなおさないの?今乗っているの調子が悪いって言ってたでしょう?」
明はバツの悪そうな顔で頭をかきながら答えた。
「いやあ、実は金がなくてさ」
「え?もう貯まりそうだとか言ってなかった?」
「いや、ほら、先月だっけ。財布を盗まれたって騒いでた観光客の人がいたじゃん」
「ああ、明君が帰りの旅費貸してあげたのよね」
「あの人と連絡取れなくてさ。警察の方で調べてくれたんだけど、住所も電話番号もでたらめで……」
「あらあら。町に来てくれるお客さんが増えるのはありがたいけど、いい事ばかりじゃないのよねえ」
「まあでも、もし本当だったらこの町に嫌な思い出持っちまうべ?それよりはいいさ。だから新しいバイクはしばらくお預けだ」
「え、そのお婆さんが作った?いや、でもその人ボケ……あ、いけね、その」
「ああ、気を遣わないで。そう、普段は十分前の事も思い出せないのに、郷土料理の作り方だけはプロ顔負けなのよ。鮭の煮汁でご飯を炊くのって結構難しいのよ。あたしがやるとご飯粒が生臭くなって食べられたもんじゃなくて、未だにちゃんと作れた事がないわ」
「はあ、それなのに作れるって。人間って不思議だな」
そこでまたフミじいさんが口をはさんだ。
「その婆さんは生まれも育ちもこの地方だ。いくら頭がボケてたって、ガキの頃から食ってきた味は忘れられるもんじゃねえ」
食事が終わり食器が片づけられ、6人そろってお茶をすすっている時に、ふと思い出したという感じで吉川が明に訊いた。
「ところで明君。まだバイク買いなおさないの?今乗っているの調子が悪いって言ってたでしょう?」
明はバツの悪そうな顔で頭をかきながら答えた。
「いやあ、実は金がなくてさ」
「え?もう貯まりそうだとか言ってなかった?」
「いや、ほら、先月だっけ。財布を盗まれたって騒いでた観光客の人がいたじゃん」
「ああ、明君が帰りの旅費貸してあげたのよね」
「あの人と連絡取れなくてさ。警察の方で調べてくれたんだけど、住所も電話番号もでたらめで……」
「あらあら。町に来てくれるお客さんが増えるのはありがたいけど、いい事ばかりじゃないのよねえ」
「まあでも、もし本当だったらこの町に嫌な思い出持っちまうべ?それよりはいいさ。だから新しいバイクはしばらくお預けだ」



