「ハラコ?」
「鮭の卵よ。一緒に乗っているのが鮭の切り身だから」
「ああ、なるほど、確かに親子丼て言えばそうかも……ん!ちょっと待った!じゃあ、これはみんなイクラなのか?」
「ああ、東京ではそう呼ぶわね」
「マ、マジかよ?東京の寿司屋とかで、こんだけのイクラ食べたら万札が吹っ飛ぶぞ」
 吉川を手伝って味噌汁の椀を卓に並べている明が目を丸くして聞き返した。
「それこそマジですか、ですよ。東京じゃこんな物がそんなにするんですか?」
「いや、あんた、こんな物って……」
 そこでフミじいさんが合図をするかのようにパンと大きな音を立てて両手を叩いた。
「どうだ、ねえちゃん。ド田舎にもいいとこがあるだろ。それならなおさら腹いっぱい食って行けや」
 朝食を取っていなかった美咲は丼を抱え上げて思いきり中身を口にかき込んだ。塩気の効いたイクラが舌に染みた。ふと美咲は気づいて丼の中の米粒を底の方まで箸でひっくり返した。
「これ玄米?色がついてる。いや、玄米じゃないよね。でも米粒に魚の味が……」
 その疑問にはフミじいさんが答えた。
「ああ、そりゃ、鮭の煮汁で米を炊いたからだよ。今でこそハラコ飯を出す店はあちこちにあるけんど、飯を炊くのにこの手間かけるのはこの辺りの地方だけだ」
「へえ!先生、すごいな。あたしと大して年違わないのに、こんな手の込んだ料理作れるなんて」
 美咲にそう言われた吉川はあわてて首を横に大きく振った。
「違う、違う、私じゃないわよ。これ作ったのは……」