「ストロベリーライン?」
 怪訝そうに聞き返す美咲に、フミじいさんはますます誇らしげな声になって言葉を続ける。
「ああ、この県道38号線沿いにはな、隣町までずうっとこんなイチゴの畑とビニールハウスが並んでるんだ。この町の自慢でな。名付けてストロベリーライン。どうだ?」
「けっ!」
 美咲はいつもの口癖で毒づいた。
「ただビニールハウスが並んでるだけだろ?カタカナにすりゃしゃれてるってもんじゃないだろ」
「ははは、まあ、東京みたいな都会のモンから見たらそうだろうがな。5月ぐらいまでだったら、それこそ枝から摘んだばかりのイチゴを腹いっぱい食わせてやれたんだがな。今はもう時期が終わってるでな。いつかその頃にこの町へ来てみろや」
 それから4人は吉川の家に戻り、風呂場でざっと体を洗って居間の卓についた。今度は吉川が君枝と一緒に台所に入った。居間で自分の膝の上にちゃっかり座り込んだ麻里とふざけ合っていると、フミじいさんがクンクンと鼻を鳴らしてうれしそうに言った。
「おお!昼は親子丼だな」
 ふーん、何がそんなにうれしいんだ?いくら田舎だからって親子丼がそんなに珍しいわけじゃないだろうに?と美咲が思っていると、吉川が大きな四角い盆に丼を六つ乗せて来た。
 なぜ六つ?と思ったらほどなく明が店のシフトが終わったと言ってやって来た。自分の前に置かれた丼の中を見た美咲は、あからさまに不思議そうな顔をした。そこには焼いた魚の切り身が一切れ、そしてオレンジがかった赤い小さな粒がびっしり乗っている物だったからだ。
「はあ?これが親子丼?」
 美咲はつい声に出した。それを聞いた吉川が思わず吹き出した。
「あはは、フミじいさんね、それ言ったの。よその土地の人に通じるわけがないでしょ?これはハラコ飯とも言うのよ」