「は?罪滅ぼし?」
「何年か前、イチゴが大豊作になった時があったのよ。でもイチゴに限らず農産物って全国的に豊作だとかえって売値は下がっちゃうの。この辺りのイチゴの出荷はフミじいさんが農協の担当者でね、少しでも値崩れを防ごうとして、都会から来た取引業者の誘いに乗っちゃって。確か先物取引とか言ったかしら」
「ああ、先物か。少しは知ってるけど、イチゴでもあるんだね」
「そしたら、かえって値段が大幅に下がってしまった。その都会の取引業者に連絡をつけようとしたらもうドロン……そんな事があったのよ。フミじいさん、一軒一軒回って玄関先で土下座していたのよ。それ以来、この辺の用水路とか頼まれもしないのに手入れを買って出るようになって」
「ちょっと待ってくれよ」
 美咲は思わず口をはさんだ。
「それ、あのじいさんの責任じゃないだろ?その農家の人たちだって承知で頼んだ事じゃないのかよ?じいさんだって被害者だろ?なんであのじいさんが、そんな責任感じなきゃいけないんだよ?」
 そこまで言った時、吉川が「シッ」と言って人差し指を唇にあてた。フミじいさんの足音が聞こえてきた。
「よっ!待たせたな。ようし、これで大丈夫そうだ。さ、けえって飯にすっべ」
 軽トラックに戻った時、美咲はふとある事に気づいた。それは片側一車線ずつの狭い道だったが、その両側、特に海岸の反対側にズラリとビニールハウスが並んでいた。
 心なしか甘酸っぱい香りが風に乗って漂って来る気がした。どこまで続いているのだろうと目をこらすが、ビニールハウスの列の終わりが見えない。どこまでも果てしなく続いているかのようだ。美咲の様子に気づいたフミじいさんが少し自慢げな口調で声をかけた。
「ほう、ねえちゃん。ストロベリーラインが気に入ったか?」