「ああ、そうだ、フミじい。隣の地区との境の側溝が泥で埋まってたぞ。あれじゃ農業用水流れないと思うけど」
「田代さんちの畑の横のあれか?」
「そうだよ。俺は午前中は店のシフト入ってるから手伝えねえけど大丈夫か?」
「なあに、気にすんな。よし、これからいっちょう片づけてくっか」
 そう言ったフミじいさんに麻里が下からせがんだ。
「じゃあ麻里もお手伝いする!連れてって!」
「じゃあ、私も行きましょう」
 そう言って吉川が縁側から降りた。
「あそこの側溝は人数が多い方がいいでしょ?」
 美咲は一瞬迷ったが、一人で、いや、あの君枝という老女と二人で家の中にいるのは気が進まなかった。それに世話になりっぱなしというのも気が引ける。
「じゃあ、あたしも連れてけよ。なんか知らないけど溝さらいだろ?こう見えても力あるぜ」
「あら、気を遣わなくていいのよ。お客さんにそんな仕事させるのもなんだし」
「いいよ、一宿一飯の恩義ってやつだ。それに体動かして汗かいた方が二日酔いも抜けるだろうしさ」
 フミじいさんが運転するえらく古風な軽トラックの助手席に麻里を乗せ、美咲と吉川は荷台に乗ってその場所へ向かった。荷台に人が乗るのは厳密には違反なのだが、数分の距離だしこの辺りの住民は気にしないらしい。
 そこは小高く盛り上がった畑が道路に沿って一面に続く場所だった。フミじいさんは農作業用らしいズボン、美咲と吉川はジーンズ、そろって麦わら帽子を被り大型のスコップを持って畑の横の側溝にたまった泥を掻き出した。麻里は小さな園芸用のスコップで一生懸命に泥を掘っていたが、その泥は四方八方に飛び散って、手伝っているのか邪魔をしいているのか微妙なところだった。