翌朝目が覚めた時、美咲は案の定強烈な頭痛に襲われた。蚊帳が吊られた布団の上であぐらをかき、しばらく両手で頭を抱えてうめいた。ここまで重症の二日酔いは久しぶりだった。廊下を半ば這うようにして居間にたどり着くと、大時計はもう7時過ぎを指していた。
 吉川が冷たい麦茶の入ったコップを美咲に差し出しながら笑いをこらえている表情で言った。
「ふふふ、大丈夫?一升瓶を空けちゃったんだものね」
 美咲は麦茶を一気に飲み干しながら答えた。
「くそ!学生時代から飲み比べで負けた事は一度もなかったのに。それにさ!」
 美咲は縁側の向こうの庭を指さしながら納得がいかないという口調で怒鳴るように言った。
「なんで勝った奴が朝からあんなに元気なんだよ!」
 庭先ではフミじいさんと麻里がサッカーボールを追って所せましと走り回っていた。美咲の声が聞こえたらしく、フミじいさんは足を止めガハハと豪快に笑って大声で言った。
「田舎ののんべえをなめちゃいかんぞ。都会モンとは日頃からの鍛え方が違うって!」
 そこへ原付バイクのエンジン音が近づいて来た。庭の入口でキッと止まったバイクから降りてヘルメットをはずしたのは、昨夜の明というあのコンビニの店員だった。バイクの荷台から小さな段ボール箱を下ろして縁側にやって来た。吉川にその箱を渡し伝票を差し出しながら明は言った。
「はい、コンビニ受け取りの荷物来てたよ。先生、また本か?相変わらず勉強熱心だな。俺も高校時代にもっと勉強しときゃよかった」
「はい、ご苦労様。私も同じよ。なんで学生時代にもっとちゃんと勉強しなかったかなって。そのツケが今になって回って来てるのよ」
 サインされた伝票を受け取った明は、庭を横切って行く途中思い出したようにフミじいさんに声をかけた。