「あんたたちって、みんな親戚かなんかなの?」
吉川は笑って首を横に振った。
「いえ、みんなこの町に取り残されちゃっただけなのよ。電車も道路も通行止めでどこへも行けないし。明日までには迎えが来るだろうけど、それまでばらばらにいるより、みんなで一か所にいた方がいいと思ってね。麻里ちゃんは小さいから一人で置いておけないし」
「ああ、そういう事。それで、そのお婆さんは?」
「さっきの小学校の向こうの海辺に大きな建物が見えたでしょ?あれは老人ホームで、そこに入居している君枝さんというの。この人もホームに一人残る事になって、まあ私の家に来てもらった方が私も便利だし。実は麻里ちゃんがなぜか君枝さんになついててね。よく老人ホームまで遊びに行っているのよ。そういうわけでここに泊まってもらう事にしたの。私の家って、ほら、見ての通り古いけど無駄に大きいしね」
吉川とフミじいさんが食事の後片付けをする間、美咲は麻里を風呂に入れてくれないかと頼まれた。海水でまだ体がべたついているように感じていた美咲にはありがたかったので、二つ返事で引き受けた。
五右衛門風呂のような古い風呂釜を想像していたが、意外に都会と変わらないバスタブとタイル張りの浴室だった。麻里はおかっぱより少し長い髪を玉のような飾りのついたゴムひもで一つにくくっていた。
髪を洗ってやる段になり、麻里がその髪留めをはずして左の手首にはめた。それを見た美咲は思わず「へえ」と声を出した。その直径3センチほどの大きさの玉はどうやら木で出来ていて漆を塗った物のようだった。だが赤、黄色、緑の鮮やかな色彩の点が無数に散りばめられている。どうやら一度漆を塗ってその上に色づけをし、さらに表面を漆で塗り固めてあるらしい。
美咲の視線に気づいた麻里がその玉を見せながら言った。
「綺麗でしょ?玉虫塗って言うんだよ」
「へえ、確かに玉虫色って感じだな」
「大人の人には、金色や銀色の模様のもあるんだよ。おねえちゃん、美人だからそっち買ってみたら」
「けっ!ませた事言ってるんじゃないよ」
吉川は笑って首を横に振った。
「いえ、みんなこの町に取り残されちゃっただけなのよ。電車も道路も通行止めでどこへも行けないし。明日までには迎えが来るだろうけど、それまでばらばらにいるより、みんなで一か所にいた方がいいと思ってね。麻里ちゃんは小さいから一人で置いておけないし」
「ああ、そういう事。それで、そのお婆さんは?」
「さっきの小学校の向こうの海辺に大きな建物が見えたでしょ?あれは老人ホームで、そこに入居している君枝さんというの。この人もホームに一人残る事になって、まあ私の家に来てもらった方が私も便利だし。実は麻里ちゃんがなぜか君枝さんになついててね。よく老人ホームまで遊びに行っているのよ。そういうわけでここに泊まってもらう事にしたの。私の家って、ほら、見ての通り古いけど無駄に大きいしね」
吉川とフミじいさんが食事の後片付けをする間、美咲は麻里を風呂に入れてくれないかと頼まれた。海水でまだ体がべたついているように感じていた美咲にはありがたかったので、二つ返事で引き受けた。
五右衛門風呂のような古い風呂釜を想像していたが、意外に都会と変わらないバスタブとタイル張りの浴室だった。麻里はおかっぱより少し長い髪を玉のような飾りのついたゴムひもで一つにくくっていた。
髪を洗ってやる段になり、麻里がその髪留めをはずして左の手首にはめた。それを見た美咲は思わず「へえ」と声を出した。その直径3センチほどの大きさの玉はどうやら木で出来ていて漆を塗った物のようだった。だが赤、黄色、緑の鮮やかな色彩の点が無数に散りばめられている。どうやら一度漆を塗ってその上に色づけをし、さらに表面を漆で塗り固めてあるらしい。
美咲の視線に気づいた麻里がその玉を見せながら言った。
「綺麗でしょ?玉虫塗って言うんだよ」
「へえ、確かに玉虫色って感じだな」
「大人の人には、金色や銀色の模様のもあるんだよ。おねえちゃん、美人だからそっち買ってみたら」
「けっ!ませた事言ってるんじゃないよ」



