ストロベリーライン・フォーエヴァー

「プッ!」
 二人の会話を聞いていた美咲は思わず噴き出してしまった。そのまま腹を押さえて数秒笑い続けた。店を出た後も美咲はまだクスクス笑いが止まらなかった。それを見た吉川が微笑みながら言った。
「フフ、ここに来てから初めて笑ってくれたね」
 その言葉を聞いた美咲はハッと思い当って思わず大声で言った。
「ひょっとして、あたしを元気づけようとして、あんな漫才やってくれたわけ?」
「アハハ!私たちみたいな田舎者にそんな事が出来るわけないわよ。さあ、戻りましょ」
 吉川の家に戻り庭に自転車を立てたところで、縁側までいい匂いが漂っているのに美咲は気づいた。味噌らしき香りが漂ってくる。吉川の後に続いて縁側から今に上がると、一人の老女がポツネンと大きな卓の横の座布団の上に座っていた。その眼の焦点はどこか合っていないように思え、空中をぼんやりと見つめているように思えた。
 美咲と吉川の姿を部屋の奥から見つけた麻里がうれしそうに台所の方に向かって声を上げた。
「おじいちゃん!センセーたち、帰って来たよ!」
「よっしゃ。ほれマリちゃん、これ運べ」
 奥の台所からあのフミじいさんの陽気な声が返って来た。麻里は漆塗りのお椀と箸を5人分両腕で抱えて危なっかしい足取りで居間の中央の卓まで運んできた。見かねた吉川がお椀を引き取り、卓の上に並べ始めた。
 やがてフミじいさんが大きな鍋を抱えて居間にやって来た。その鍋からは香ばしい味噌の香りが漏れていた。さっきのいい匂いはこれだったらしい。
 やがて卓の庭側の狭い部分の前に美咲、入り口から遠い部屋の奥に麻里と老女、その反対側に吉川とフミじいさんがそれぞれ座って、夕食になった。鍋の蓋を吉川が取るともわっと湯気が上がり、彼女はお椀に中の細い白い麺と汁を椀に取り分け始めた。