世界中を飛び回る旅にたった一人で出発しただけあって、どうやら世界各地の言語を操ることができるらしいラグナードとは違い、キリはケノーランドの言語には通じていない。
「あら? 知らない言葉だわ」
貴族語など聞いたこともない庶民の娘はそう言ってから、首をかしげた。
「でも私、今あなたの言ったことの意味がなんとなくわかったわ。なぜかしら?」
「うふふ、わたしは魔法使いだからねー」
キリは甘いお茶をおいしそうに飲んで、
「言葉が通じなくても、心で会話することもできるの」とやはり貴族語で説明した。
「相手の思ったことを魔法で読みとって、わたしの思ったことを魔法で伝えるの」
「あなた、魔法使いなの?」
娘は目を丸くした。
「私、魔法なんて始めてよ。ふうん、便利なものなのねえ」
異国の鳶色の瞳は物珍しそうにキリをながめて、
「ゴンドワナから来たっていうことは、天空船で?」
高貴な鎧に身を包んだラグナードにチラチラと視線を投げてたずねた。
天空船は安全な旅ができる反面、乗船賃が高く、利用できるのは裕福な者や貴族に限られている。
いかにも貴族というラグナードのいでたちは、確かに天空船での旅も可能そうな印象だ。
「んーん。わたしたちは砂漠を越えて来たの」
キリが、夕刻に上空から見た雄大な砂の景色を思い起こしながら言うと、宿の娘の顔色がさっと変わった。
「砂漠を? ゴンドワナの方角からだと──まさかあなたたち、ダバラーン砂漠を越えてきたの?」
「そうだよ」
「そんな……『後追いの砂漠』をどうやって……!?」
ケノーランドの北に広がるダバラーン砂漠は、別名を「後追いの砂漠」という。
砂漠には昔から「ダバラーン」「後追い」「後に続く者」などと呼ばれる魔物が住み着いていて、旅人を襲って食べてしまう。
このため行商人や旅人は、広大な砂漠を時間をかけて迂回するのが通例で、ジャッバールのような砂漠のふちにある町が旅の中継地として栄えている。
「えーと、それは……」
「おい……!」
飛行騎杖のことをしゃべられてはかなわないと、ラグナードがキリをにらみつけた。
「……それは、魔法で」
ちょっと迷った末、キリはそう答えた。
「へえ、やっぱり魔法ってすごいのね」
感心する娘に、キリはあいまいに笑った。
すごいのはゴンドワナからここまでたったの一日で移動できた文明の利器なのだが、その高性能な飛行騎杖はキリの魔法の力で飛ばしてきたのだから、うそは言っていないと思うことにした。
「ここへは何をしに? 『喪失のイレム』を見に来たの?」
「んーん。旅の途中で寄っただけだよ」
キリはラグナードの顔色をうかがって、
「急いでるから……観光してる時間はないと思う」
残念そうに肩を落とした。
「あら? 知らない言葉だわ」
貴族語など聞いたこともない庶民の娘はそう言ってから、首をかしげた。
「でも私、今あなたの言ったことの意味がなんとなくわかったわ。なぜかしら?」
「うふふ、わたしは魔法使いだからねー」
キリは甘いお茶をおいしそうに飲んで、
「言葉が通じなくても、心で会話することもできるの」とやはり貴族語で説明した。
「相手の思ったことを魔法で読みとって、わたしの思ったことを魔法で伝えるの」
「あなた、魔法使いなの?」
娘は目を丸くした。
「私、魔法なんて始めてよ。ふうん、便利なものなのねえ」
異国の鳶色の瞳は物珍しそうにキリをながめて、
「ゴンドワナから来たっていうことは、天空船で?」
高貴な鎧に身を包んだラグナードにチラチラと視線を投げてたずねた。
天空船は安全な旅ができる反面、乗船賃が高く、利用できるのは裕福な者や貴族に限られている。
いかにも貴族というラグナードのいでたちは、確かに天空船での旅も可能そうな印象だ。
「んーん。わたしたちは砂漠を越えて来たの」
キリが、夕刻に上空から見た雄大な砂の景色を思い起こしながら言うと、宿の娘の顔色がさっと変わった。
「砂漠を? ゴンドワナの方角からだと──まさかあなたたち、ダバラーン砂漠を越えてきたの?」
「そうだよ」
「そんな……『後追いの砂漠』をどうやって……!?」
ケノーランドの北に広がるダバラーン砂漠は、別名を「後追いの砂漠」という。
砂漠には昔から「ダバラーン」「後追い」「後に続く者」などと呼ばれる魔物が住み着いていて、旅人を襲って食べてしまう。
このため行商人や旅人は、広大な砂漠を時間をかけて迂回するのが通例で、ジャッバールのような砂漠のふちにある町が旅の中継地として栄えている。
「えーと、それは……」
「おい……!」
飛行騎杖のことをしゃべられてはかなわないと、ラグナードがキリをにらみつけた。
「……それは、魔法で」
ちょっと迷った末、キリはそう答えた。
「へえ、やっぱり魔法ってすごいのね」
感心する娘に、キリはあいまいに笑った。
すごいのはゴンドワナからここまでたったの一日で移動できた文明の利器なのだが、その高性能な飛行騎杖はキリの魔法の力で飛ばしてきたのだから、うそは言っていないと思うことにした。
「ここへは何をしに? 『喪失のイレム』を見に来たの?」
「んーん。旅の途中で寄っただけだよ」
キリはラグナードの顔色をうかがって、
「急いでるから……観光してる時間はないと思う」
残念そうに肩を落とした。



