山脈よりも高いこんな位置を、こんな速さで飛行するとは思ってもいなかった。
魔法によって集められた空気が、いつわりの風のようにそよそよと流れ込んでキリの長いピンクの髪をなびかせているが、おそらく地上からこんなに離れていては空気も薄いだろう。
「……ひょっとしてラグナードって、飛行騎杖じゃなくて戦闘騎杖の操縦訓練も受けてる?」
ただ飛ばすだけならば子供でも可能だが、
こんな高速で安全に飛行させるには、頭で考えるだけといってもそれなりの訓練が必要になる。
「当たり前だ」
「ガルナティスの王子様ってそれが当たり前なの?」
キリは衝撃を受けた。
「えーなんかやだ。王子様が戦闘騎杖に乗ってるなんて、夢がなーい」
「……夢がない?」
ラグナードがけげんそうに背中で聞き返した。
「だって、王子様が乗るのは馬でしょ、白馬!」
「……白かろうが黒かろうが、まあ、軍用馬に乗ることもあるが」
「軍用馬!?」
鼻先でぱたぱたはためくラグナードのマントを見つめてキリはしばし言葉を失って──「だめだめ!」とすぐに声を上げた。
「そんなの王子様じゃない」
「どんなのが王子なんだ?」
「王子様って言えば、ホラ、優雅に白馬に乗って女の子を迎えに行くイメージ」
「お前の偏見に満ちた王子像など知るか!」
ラグナードはイライラとわめいた。
いかにも王子様らしい外見だと言って詐欺師扱いしたり、イメージの中の王子様らしさを求めたり、キリが王子という存在に何を求めているのかさっぱりわからなかった。
「言っておくがな、世界中どこを見ても、王子が毎日ただ遊んでいるだけの国などない。
王族なら政務や軍務に就くのが当たり前だろう!
俺の仕事は摂政大公と、ガルナティス飛空騎士団の総指令官だ」
重装の鎧姿は伊達というわけではないらしい。
「軍人なの?」
キリは目を丸くした。
「摂政大公や騎士団の指令官が、留学だって嘘ついて半年間も一人でウロウロしてたってこと?」
「軍を率いる立場だからこそだ。これ以上、いたずらに兵を送り込んで犠牲にすることも、被害が拡大するのを指をくわえて見ていることも、断じてできん!」
前を向いたまま偉そうに言うラグナードの考えは立派なもののように聞こえるが、
「それで、魔法使いと一緒に一人で怪物退治をしようと思ったのかぁ……」
彼がとった行動は、周囲の迷惑を完全に無視したものに思えた。
留学先から消えたことが判明して、今ごろ国は大騒ぎになっているのではないだろうか。
ガルナティス王国って大変そう、とキリはこっそりつぶやいた。
魔法によって集められた空気が、いつわりの風のようにそよそよと流れ込んでキリの長いピンクの髪をなびかせているが、おそらく地上からこんなに離れていては空気も薄いだろう。
「……ひょっとしてラグナードって、飛行騎杖じゃなくて戦闘騎杖の操縦訓練も受けてる?」
ただ飛ばすだけならば子供でも可能だが、
こんな高速で安全に飛行させるには、頭で考えるだけといってもそれなりの訓練が必要になる。
「当たり前だ」
「ガルナティスの王子様ってそれが当たり前なの?」
キリは衝撃を受けた。
「えーなんかやだ。王子様が戦闘騎杖に乗ってるなんて、夢がなーい」
「……夢がない?」
ラグナードがけげんそうに背中で聞き返した。
「だって、王子様が乗るのは馬でしょ、白馬!」
「……白かろうが黒かろうが、まあ、軍用馬に乗ることもあるが」
「軍用馬!?」
鼻先でぱたぱたはためくラグナードのマントを見つめてキリはしばし言葉を失って──「だめだめ!」とすぐに声を上げた。
「そんなの王子様じゃない」
「どんなのが王子なんだ?」
「王子様って言えば、ホラ、優雅に白馬に乗って女の子を迎えに行くイメージ」
「お前の偏見に満ちた王子像など知るか!」
ラグナードはイライラとわめいた。
いかにも王子様らしい外見だと言って詐欺師扱いしたり、イメージの中の王子様らしさを求めたり、キリが王子という存在に何を求めているのかさっぱりわからなかった。
「言っておくがな、世界中どこを見ても、王子が毎日ただ遊んでいるだけの国などない。
王族なら政務や軍務に就くのが当たり前だろう!
俺の仕事は摂政大公と、ガルナティス飛空騎士団の総指令官だ」
重装の鎧姿は伊達というわけではないらしい。
「軍人なの?」
キリは目を丸くした。
「摂政大公や騎士団の指令官が、留学だって嘘ついて半年間も一人でウロウロしてたってこと?」
「軍を率いる立場だからこそだ。これ以上、いたずらに兵を送り込んで犠牲にすることも、被害が拡大するのを指をくわえて見ていることも、断じてできん!」
前を向いたまま偉そうに言うラグナードの考えは立派なもののように聞こえるが、
「それで、魔法使いと一緒に一人で怪物退治をしようと思ったのかぁ……」
彼がとった行動は、周囲の迷惑を完全に無視したものに思えた。
留学先から消えたことが判明して、今ごろ国は大騒ぎになっているのではないだろうか。
ガルナティス王国って大変そう、とキリはこっそりつぶやいた。



