「よし」
ラグナードはほっとして、手すりにつかまり立ったまま前方を向いた。
キリは少し迷ってから、スカアトをふわりと広げて彼の後ろにちょこんと座った。
騎杖はラグナードのように立ったまま乗ることを前提に設計されているものだが、大いなる回廊を半周する旅路を考えると座ったほうが楽そうだった。
魔法使いが杖に力を注ぐ時と同じように、
はめこまれた宝玉が淡く発光し、続けて刻まれた魔法の紋様がすみずみまで輝いて、
命を吹きこまれた金属が音もなくふわりと宙に浮く。
出発しようとして、最後にラグナードはこの奇妙な空き地を見回した。
森をそこだけ切り取ったかのように、円形にそこだけ開けた土地は、上空から見つけた時にも何かあるのだろうかと不思議に思った。
しかし、倒木や木の根がただごろごろしているだけで、特に他には変わったものもない。
「キリ、お前は俺が三日の距離と言って方向を教えただけで、よくこの場所がわかったな」
誤差もなく、見事に空き地のまん中に移動できたのは、魔法とはそういうものだからなのだろうか。
「だってここ、前にも来た場所だったもん」
後ろに座ったキリがのんびりと答えた。
「そうなのか?」
「青星のアルシャラと魔法で殺し合いをした場所だから」
さらりと物騒な言葉が飛び出して、思わずラグナードは後ろの少女を振り返った。
紫色の瞳の視線の先で、キリは照れたように笑った。
「そのときに、アルシャラが燃やしたりわたしが消し飛ばしたりして、こうなっちゃったの」
笑いごとではないできごとがあった結果の無惨な土地の姿だったようだ。
「……よくわかった……」
痛み出しそうになるこめかみを軽く押さえて、ラグナードは空の上の故郷をちらと見上げた。
「行くぞ」
短く言って、杖の先端を上空へと向かって斜めに傾け、
ラグナードはいきなり最高速度で騎杖を発進させた。
後ろに引っぱられることもなく、
斜めに傾いていてもその傾きを感じることも、
大気との摩擦で生じる熱を感じることもなく、
風圧すらも感じない。
乗り手の体勢を安定させるため、魔法の壁で守られているためだ。
なにがなんだかわからないまま、風景が消え、周りが青い色だけになって、キリは大きく目を瞬いた。
おそるおそる下をながめると、
綿のような雲がまばらに散らばって、
森の緑がはるか下にかすみ、
ゴンドワナの大陸の形が見えていた。
ゆっくりと地形が後ろに流れている。
「うわ、なんかすごいスピード出てる? 落ちたら死にそう」
「まあ、音の速さは超えているはずだが」
前方をにらみつけたまま、ラグナードが振り返らずに言った。
人が作った円形の金属の鳥は一瞬で上空に舞い上がり、雲の上を大地に対して水平に進んでいた。
キリはびっくり仰天した。
ラグナードはほっとして、手すりにつかまり立ったまま前方を向いた。
キリは少し迷ってから、スカアトをふわりと広げて彼の後ろにちょこんと座った。
騎杖はラグナードのように立ったまま乗ることを前提に設計されているものだが、大いなる回廊を半周する旅路を考えると座ったほうが楽そうだった。
魔法使いが杖に力を注ぐ時と同じように、
はめこまれた宝玉が淡く発光し、続けて刻まれた魔法の紋様がすみずみまで輝いて、
命を吹きこまれた金属が音もなくふわりと宙に浮く。
出発しようとして、最後にラグナードはこの奇妙な空き地を見回した。
森をそこだけ切り取ったかのように、円形にそこだけ開けた土地は、上空から見つけた時にも何かあるのだろうかと不思議に思った。
しかし、倒木や木の根がただごろごろしているだけで、特に他には変わったものもない。
「キリ、お前は俺が三日の距離と言って方向を教えただけで、よくこの場所がわかったな」
誤差もなく、見事に空き地のまん中に移動できたのは、魔法とはそういうものだからなのだろうか。
「だってここ、前にも来た場所だったもん」
後ろに座ったキリがのんびりと答えた。
「そうなのか?」
「青星のアルシャラと魔法で殺し合いをした場所だから」
さらりと物騒な言葉が飛び出して、思わずラグナードは後ろの少女を振り返った。
紫色の瞳の視線の先で、キリは照れたように笑った。
「そのときに、アルシャラが燃やしたりわたしが消し飛ばしたりして、こうなっちゃったの」
笑いごとではないできごとがあった結果の無惨な土地の姿だったようだ。
「……よくわかった……」
痛み出しそうになるこめかみを軽く押さえて、ラグナードは空の上の故郷をちらと見上げた。
「行くぞ」
短く言って、杖の先端を上空へと向かって斜めに傾け、
ラグナードはいきなり最高速度で騎杖を発進させた。
後ろに引っぱられることもなく、
斜めに傾いていてもその傾きを感じることも、
大気との摩擦で生じる熱を感じることもなく、
風圧すらも感じない。
乗り手の体勢を安定させるため、魔法の壁で守られているためだ。
なにがなんだかわからないまま、風景が消え、周りが青い色だけになって、キリは大きく目を瞬いた。
おそるおそる下をながめると、
綿のような雲がまばらに散らばって、
森の緑がはるか下にかすみ、
ゴンドワナの大陸の形が見えていた。
ゆっくりと地形が後ろに流れている。
「うわ、なんかすごいスピード出てる? 落ちたら死にそう」
「まあ、音の速さは超えているはずだが」
前方をにらみつけたまま、ラグナードが振り返らずに言った。
人が作った円形の金属の鳥は一瞬で上空に舞い上がり、雲の上を大地に対して水平に進んでいた。
キリはびっくり仰天した。



