キリと悪魔の千年回廊

人工魔法核は馬鹿高い値段でしか買えない上に、使い続けると壊れるのだ。


飛行騎杖の操縦に使うならばフライト数回程度、
魔法を使うために使用すればどんな小さな魔法でも一回の使用で直ちに壊れるように設定されている。

それこそ国家規模の資金を持った王侯貴族など一部の特権階級の人間しか買うことのできない、世界で一番高価な消耗品だった。


当然、高価な人工魔法核を一回で壊れる魔法のために使う者などおらず、世界各国でもっぱら騎杖の燃料として使用されている。


「いざというときのために一回分は残しておきたい。お前が起動させろ」

使用済みの半分だけが黒く染まった砂時計をケースに収めて再び懐にしまい、ラグナードは後ろに乗ったキリに命令した。

一般的な一人乗り用の飛行騎と違い、特注品だというこの杖には二人の人間が乗っても十分なスペースがある。

「うー。疲れるからやだなー」

エスメラルダで操縦した時の記憶を思い出して、キリは軽くため息をついた。


起動させること自体は難しくなく、魔力を持った者ならば乗っているだけでいい。

あとは寝ていようが他の魔法を使おうが、飛行騎杖は自動的に飛行のための魔法を使わせ続ける。

死ぬまで強制的に。


自らの意志と関係なく、延々と魔法を使い続ける状態が続くというのはひたすら疲れる。


「言っておくが、操縦は俺がする。お前はよけいなことは考えず、起動状態の維持のためだけにただ乗っていろ」

「えー!?」

操縦の方法もいたって簡単で、ただ頭の中で動くように思うだけでいい。

自分の体を動かす感覚で、飛行騎杖の動きを操ることができる。

「つまんないー」

文句を言うキリの様子から、ムリヤリにでも動かそうとしかねない危険な空気を感じとって、ラグナードは頬を引きつらせた。

「……なら聞くが……お前、操縦ミスでこいつを壊したら、弁償できるのか?」


二人以上の人間が乗っている場合、二人が同時に別の方向に動かそうとしたりすれば、多くの場合墜落するはめになる。

現在の飛行騎杖が基本的に一人乗り専用なのは、過去に二人乗り以上で多発した事故を防ぐためだ。


「はいはーい、起動維持に専念しまーす」

ただちに文句を引っ込めて、キリが素直に首肯した。