キリと悪魔の千年回廊

当然、製造が独占されていれば好きに値をつり上げられるが、現代の技術の粋を集めた杖というものは、製造自体にも莫大な費用がかかる。

宝石や金銀と言った材料を惜しげもなく使って作られるため、原材料費だけでも、まさに美術品然とした見た目どおり。

エスメラルダが特にぼったくって値をつり上げているというわけではなく、必然的に高くなるのだ。


「まあな。戦闘騎杖のように攻撃のための主砲などはついていないが、大きさと機動性だけならば戦闘騎杖並の特注品の杖だ。
これ一騎で、城が五つ六つは買える値段だな」

ラグナードは完全に金銭感覚の欠落した内容を得意げに語った。


特注品だというこの飛行騎杖の床には、透明で頑丈な結晶素材が使われていた。

真下の風景を楽しむための贅沢なしつらえで、おそろしく値が張る素材である。


「こんなの、一人で乗り回してここまで来たの?」

その世間知らずな非常識さに、キリはあきれた。

「よく盗まれなかったね」

置きっぱなしにする際に、コケをかぶせて隠す程度の発想はあるようだが。

「こんなもの、盗んでも魔法使いでなければ起動できない」

確かに、

どう発展してきたにせよ、飛行騎杖の本質は太古の昔から変わらない魔法使い専用の「杖」であるため、魔法が使えない一般人には宝の持ち腐れ。

乗って空を飛ぶ以前に、騎杖を起動させて宙に浮かせることすらできないのだが──。

「乗りこなせないものを盗んでも仕方がないだろう」

したり顔で言うラグナードを見て、キリは「うわあ、バカだ」とさけびたくなるのを何とかがまんした。

飛行騎杖自体は乗りこなせなくても、盗んで売るだけで彼が言う「城が五つ六つ買える」金になるのだということがわかっていないセリフだった。

軽鉱石の合金で作られた杖は、子供でも一人で楽々抱えて持ち去れるほどに軽い。


「でも、これに乗ってきたってことは、ラグナードも魔法使えるの?」

「まさか」

ラグナードはばかばかしい質問だというように、肩をすくめた。

「使えるわけがない」

そう言って、彼は懐から魔法の紋様が刻まれた金属のケースを取り出し、ふたを開けて中身を出した。

「うわ!」

中から現れた白い砂時計のようなものを見て、キリは今度こそ大声を出した。

「それ、まさか人工魔法核!?」