温かで甘い飲み物を一気にカップの半分までのどの奥に流し込み、ようやく人心地ついてラグナードはカップをテーブルの上に置いた。
「さて、本題だが──」
雨戸の外では、いまだごうごうと風がうなっている。
「キリ、俺に手を貸せ」
「んー? そう言えば、さっきもラグナードってばそんなこと言ってたね」
「……一国の王子たる俺の名を呼び捨てか」
「だってわたしは別にラグナードの臣下じゃないし」
顔をしかめたラグナードに、キリは朗らかに言った。
「そもそも、まだ一国の王子だと思ってないし」
「……まあいい。この際、無礼には目をつぶってやる」
相も変わらず尊大な態度で言って、ラグナードは真剣な表情で口を開いた。
「我が国ガルナティスは今、深刻な問題に直面している」
「深刻な問題?」
卵ドリンクにどぼどぼと砂糖を入れて口に運び、テーブルの向かいでキリが明るいエメラルドの瞳を瞬かせた。
「一年前、王国のパイロープ周辺の地域が突然氷に閉ざされた」
ラグナードは重たい息とともにはき出した。
「大地は凍りつき、猛吹雪が村や町を襲い、農作物は壊滅的な打撃を受け──それどころか、逃げ遅れた民は老人から赤子に至るまで凍死し──豊かだったパイロープ一帯は死の土地と化した」
キリはあんぐりと口を開けた。
「そりゃまたいったいどうして?」
「逃げてきた周辺の民の話から、火の山パイロープを中心にして半径二百キーリオメトルムあまりの地域でこの異変が起きているということだけがわかったが、調査のためにパイロープ山に向かわせた者は誰一人として帰ってこず、原因はいっさい不明。
ついに王国の軍から調査隊を編成して、三百人ほどの兵団を送り込み──」
ラグナードは暗い顔をして黙り込んだ。
「どうなったの?」
「──調査隊は全滅した」
キリが驚いて目を丸くする。
「三百人の軍隊が?」
「そうだ。誰一人生きて戻らなかった」
怪談じみた話だった。
「ただ、調査隊の中にいた宮廷魔術師が、いまわの際に魔法で送ってきた情報が唯一の手がかりになった」
「魔法で……?」
興味をそそられてキリが身を乗り出す。
「王宮の大広間の鏡に映し出された映像と悲鳴とに、掃除中の女中が気づいたんだ。
その者の話では、吹雪の中に『白い毛に覆われた巨大な何か』が見え、『この化け物め……!』という魔術師の断末魔が聞こえて、鏡の映像はとぎれたのだそうだ」
「さて、本題だが──」
雨戸の外では、いまだごうごうと風がうなっている。
「キリ、俺に手を貸せ」
「んー? そう言えば、さっきもラグナードってばそんなこと言ってたね」
「……一国の王子たる俺の名を呼び捨てか」
「だってわたしは別にラグナードの臣下じゃないし」
顔をしかめたラグナードに、キリは朗らかに言った。
「そもそも、まだ一国の王子だと思ってないし」
「……まあいい。この際、無礼には目をつぶってやる」
相も変わらず尊大な態度で言って、ラグナードは真剣な表情で口を開いた。
「我が国ガルナティスは今、深刻な問題に直面している」
「深刻な問題?」
卵ドリンクにどぼどぼと砂糖を入れて口に運び、テーブルの向かいでキリが明るいエメラルドの瞳を瞬かせた。
「一年前、王国のパイロープ周辺の地域が突然氷に閉ざされた」
ラグナードは重たい息とともにはき出した。
「大地は凍りつき、猛吹雪が村や町を襲い、農作物は壊滅的な打撃を受け──それどころか、逃げ遅れた民は老人から赤子に至るまで凍死し──豊かだったパイロープ一帯は死の土地と化した」
キリはあんぐりと口を開けた。
「そりゃまたいったいどうして?」
「逃げてきた周辺の民の話から、火の山パイロープを中心にして半径二百キーリオメトルムあまりの地域でこの異変が起きているということだけがわかったが、調査のためにパイロープ山に向かわせた者は誰一人として帰ってこず、原因はいっさい不明。
ついに王国の軍から調査隊を編成して、三百人ほどの兵団を送り込み──」
ラグナードは暗い顔をして黙り込んだ。
「どうなったの?」
「──調査隊は全滅した」
キリが驚いて目を丸くする。
「三百人の軍隊が?」
「そうだ。誰一人生きて戻らなかった」
怪談じみた話だった。
「ただ、調査隊の中にいた宮廷魔術師が、いまわの際に魔法で送ってきた情報が唯一の手がかりになった」
「魔法で……?」
興味をそそられてキリが身を乗り出す。
「王宮の大広間の鏡に映し出された映像と悲鳴とに、掃除中の女中が気づいたんだ。
その者の話では、吹雪の中に『白い毛に覆われた巨大な何か』が見え、『この化け物め……!』という魔術師の断末魔が聞こえて、鏡の映像はとぎれたのだそうだ」



