「なんだかヘンなの」
ラグナードの部屋へともどりながら、キリは釈然としない気分でつぶやいた。
「ガルナティスは魔法使いと戦った国なのに、あんな風に魔法使いの絵を飾ってるなんて」
魔法使いをけちらした国が、
独立聖戦の英雄と並べて魔法使いも絵にして飾って、一緒にあがめているというのは──
キリにとってはなんともおかしな話に思えた。
「ヴェズルングは特別だ。
フェンリスヴォルフ一世の親友でもあり、ともに神聖エスメラルダと戦った聖戦の盟友と伝えられているからな」
ラグナードはこともなげにそう言って、
「今でもこの国では、フェンリスヴォルフ一世の次に人気がある歴史上の人物だ」
キリにしてみればとても意外なことを語った。
そう言えば、とキリは思い出す。
あの勝ち気な王女様も、
エスメラルダの魔法使いのことは毛嫌いしていたのに、千年前の霧の魔法使いのことは「ヴェズルング様」と敬称付きで呼んでいた。
「他の国からはかんちがいされることが多いが、べつにこの国も、魔法使いを目の敵にしているわけじゃない。
あくまで、魔法の力を支配に使うことを許さないだけだ」
ラグナードは、あたかも世界の秩序を護る番人かのごとくに、したり顔で偉そうに言った。
「ヴェズルングは、最強の力を持ちながらも決してそれを他者を虐げ支配する目的には用いなかった。
民を治めるのは、王にふさわしい人物であるべきだとわきまえた魔法使いだったということだな。
だからこそ、今もガルナティスでは敬意の対象にされている」
「うーん、そういうものなのかなあ……」
キリは、やっぱりいまいち釈然としなかった。
「じゃあさ、王家からはたまに魔法使いが生まれることがあるって言ってたけど……魔法使いの王様もいたってことじゃないの?
それはいいの?」
魔法使いの王様が国を治めていたら、
けっきょくはエスメラルダの統治時代と似たようなものだと思いながらキリがたずねると、
「それは、ない」
と、ラグナードはきっぱりと言って首を横にふった。
「ないって、どういうこと?」
「確かに、姉上や兄上のように、王家からはときどき魔法使いが生まれることもあるが──魔法使いに生まれついた王族が、王位に着いたという記録はない。
姉上や兄上のように自ら皇太子を辞退するか、本人が望んだとしても周囲がゆるさなかったということだろう。
これは他の国でも同じだ。
エスメラルダの支配から解放されて千年、魔法使いが国を治めたという記録は世界でもきわめてまれだ」
それほどに、
エスメラルダによる帝国支配の歴史は、
魔法の支配に対する拒絶反応を世界中にのこしたのだ。
三人がラグナードの部屋にもどると、
たしかにディナーへの招待状が届けられていて、そこにはキリとジークフリートも同席を許すという内容が書いてあった。
二人の格好を見て、ラグナードは顔をしかめる。
とても、国王との会食に招かれるにふさわしい服装ではなかった。
こんな格好の者が王族と同席するとあっては、リーゼロッテがさわぐのも道理だったが、
あまりに急な話で、これでは衣装を仕立てることもできない。
「ドレスが必要なの?」
頭を押さえたラグナードの横で、キリが自分の黒いスカアトを見下ろして、
「ドレスなら持ってるよ」
と、無邪気に言った。
「魔法で瓶に入れて持ってきたし」
懐からいそいそと例の小瓶をとりだして見せるキリに向かって、ラグナードはため息をついた。
「バカか。ドレスなら何でもいいワケじゃない。
陛下から直々に夕食に招待されたんだぞ、庶民の仕立てたドレスなど着て行けるか」
王子様はやれやれと首をふって、
「ふうん。これじゃあダメかぁ」
キリが魔法で小瓶からとり出してふわりと広げた漆黒のドレスを見て、あんぐりと口を開けた。
一目で生地の良さと、見事な仕立てであることが知れる。
貴族の令嬢が舞踏会に着ていくような、上等のドレスだった。
「……おまえ、どうしてそんなもの持ってるんだ?」
ラグナードの部屋へともどりながら、キリは釈然としない気分でつぶやいた。
「ガルナティスは魔法使いと戦った国なのに、あんな風に魔法使いの絵を飾ってるなんて」
魔法使いをけちらした国が、
独立聖戦の英雄と並べて魔法使いも絵にして飾って、一緒にあがめているというのは──
キリにとってはなんともおかしな話に思えた。
「ヴェズルングは特別だ。
フェンリスヴォルフ一世の親友でもあり、ともに神聖エスメラルダと戦った聖戦の盟友と伝えられているからな」
ラグナードはこともなげにそう言って、
「今でもこの国では、フェンリスヴォルフ一世の次に人気がある歴史上の人物だ」
キリにしてみればとても意外なことを語った。
そう言えば、とキリは思い出す。
あの勝ち気な王女様も、
エスメラルダの魔法使いのことは毛嫌いしていたのに、千年前の霧の魔法使いのことは「ヴェズルング様」と敬称付きで呼んでいた。
「他の国からはかんちがいされることが多いが、べつにこの国も、魔法使いを目の敵にしているわけじゃない。
あくまで、魔法の力を支配に使うことを許さないだけだ」
ラグナードは、あたかも世界の秩序を護る番人かのごとくに、したり顔で偉そうに言った。
「ヴェズルングは、最強の力を持ちながらも決してそれを他者を虐げ支配する目的には用いなかった。
民を治めるのは、王にふさわしい人物であるべきだとわきまえた魔法使いだったということだな。
だからこそ、今もガルナティスでは敬意の対象にされている」
「うーん、そういうものなのかなあ……」
キリは、やっぱりいまいち釈然としなかった。
「じゃあさ、王家からはたまに魔法使いが生まれることがあるって言ってたけど……魔法使いの王様もいたってことじゃないの?
それはいいの?」
魔法使いの王様が国を治めていたら、
けっきょくはエスメラルダの統治時代と似たようなものだと思いながらキリがたずねると、
「それは、ない」
と、ラグナードはきっぱりと言って首を横にふった。
「ないって、どういうこと?」
「確かに、姉上や兄上のように、王家からはときどき魔法使いが生まれることもあるが──魔法使いに生まれついた王族が、王位に着いたという記録はない。
姉上や兄上のように自ら皇太子を辞退するか、本人が望んだとしても周囲がゆるさなかったということだろう。
これは他の国でも同じだ。
エスメラルダの支配から解放されて千年、魔法使いが国を治めたという記録は世界でもきわめてまれだ」
それほどに、
エスメラルダによる帝国支配の歴史は、
魔法の支配に対する拒絶反応を世界中にのこしたのだ。
三人がラグナードの部屋にもどると、
たしかにディナーへの招待状が届けられていて、そこにはキリとジークフリートも同席を許すという内容が書いてあった。
二人の格好を見て、ラグナードは顔をしかめる。
とても、国王との会食に招かれるにふさわしい服装ではなかった。
こんな格好の者が王族と同席するとあっては、リーゼロッテがさわぐのも道理だったが、
あまりに急な話で、これでは衣装を仕立てることもできない。
「ドレスが必要なの?」
頭を押さえたラグナードの横で、キリが自分の黒いスカアトを見下ろして、
「ドレスなら持ってるよ」
と、無邪気に言った。
「魔法で瓶に入れて持ってきたし」
懐からいそいそと例の小瓶をとりだして見せるキリに向かって、ラグナードはため息をついた。
「バカか。ドレスなら何でもいいワケじゃない。
陛下から直々に夕食に招待されたんだぞ、庶民の仕立てたドレスなど着て行けるか」
王子様はやれやれと首をふって、
「ふうん。これじゃあダメかぁ」
キリが魔法で小瓶からとり出してふわりと広げた漆黒のドレスを見て、あんぐりと口を開けた。
一目で生地の良さと、見事な仕立てであることが知れる。
貴族の令嬢が舞踏会に着ていくような、上等のドレスだった。
「……おまえ、どうしてそんなもの持ってるんだ?」



