二人の人物が描かれた肖像画だった。

色あせた絵の具が、幾年もの歳月を感じさせる。



「この絵──」



ラグナードの横で、

キリは巨大な額縁におさめられた絵画を見上げて息をのむ。



あせてなお、

燃えさかる炎のような、深紅の髪が目をひく。



中央に描かれた、メインのモデルであろう人物──



豪奢な衣装をまとい、
イスに腰かけて、

くれないの髪に金の瞳で絵の中からこちらを見すえる、堂々たる風格の若者を見上げたまま、




「千年前の絵だ」


と、ラグナードは言った。




「ガルナティスの初代国王──牙剥く狼【焔狼王】フェンリスヴォルフ一世の肖像だ」




ひっそりと静まりかえった人気のない大広間に、ラグナードの声が響く。




「世界帝国として君臨していた神聖帝国エスメラルダから独立するため、世界でただ一人立ち上がり、

諸侯と民衆を率いて魔法使いたちの国と戦い、
帝国を瓦解させ、
世界を魔法使いたちの支配から解き放ち──

そして、

ガルナティス王国を建国して
初代国王として国の礎を造り、
国を治めた、

一千年前の──独立聖戦の英雄だ」




何かに挑むような狼の眼で、
じっと正面をにらむ絵の若者は、まだ二十代か──



「戦場での烈火のごときその戦いぶりと、
帝国支配へ反旗をひるがえした者として、
【焔狼王(えんろうおう)】の名で呼ばれ──

──後の世に並ぶ者のない勇猛な王として、千年が経った今もガルナティスでは讃えられている」



「ずいぶんと若いように見えるな」


後ろから絵を見上げて、ジークフリートが言った。


「この絵は、フェンリスヴォルフ一世が即位して間もない二十代のころのものだ。

ほかにもいくつか肖像はあるが、この絵がもっとも大きく描かれているために、この大広間に飾られている」


ふう、と

ラグナードは千年前の赤い髪の青年を見つめて息をはく。


「わかっただろう?」

「え?」


キリは絵からラグナードへと視線を移した。

ラグナードの横顔に、皮肉っぽい笑みがうかぶ。


「独立聖戦の英雄である焔狼王の赤き髪を受け継ぐ一族であること。

それが、ガルナティスの王家の誇りなんだ。

千年前から今もずっとな」


キリは、

王宮に着いてから出会ったラグナードの家族の容姿を思い浮かべた。


「燃え立つような赤い髪こそが、民が望む王家の者の証であり──

千年間、王家に生まれた者で赤毛ではない人間は、ただの一人もいないんだ!」


月の光のような淡いブロンドの下で、

端正な青白い顔が、苦しげにゆがむ。



「病弱に生まれつき、
誇り高き赤い色が抜け落ちた、

俺のこの燃えかすの灰のような髪も、
色素の足りない紫の瞳も、

王家の人間にふさわしくない……!」



絵の中の赤い髪の王をにらみ返し、

ラグナードは自らの生い立ちと外見について、そうはきすてた。