キリと悪魔の千年回廊

ラグナードも、確かにそのとおりだと思った。

それが渡鴉のみに可能であるならば、この黒い手紙はまごうことなき誠実な契約書に他ならない。


「わたしの杖はいったいどうなるのー?」

キリがうるうると目に涙をためて、ラグナードを見上げた。


「杖だと? まさか──」

イルムガンドルが、ヴェズルングと同じ霧の魔法使いだというキリを見つめて、

「その者の所望というのも、ヴェズルングの杖か?」

と、キリの望みを言い当てた。

今さら隠す意味もなくなって、ラグナードは素直に「そうです」と認めた。


「姉弟で重なった契約を結ぶとはな」

ジークフリートがやれやれという口調で言って、

「なに? ラグナード、おまえもこの者と杖を渡す契約を結んだのか!?」

イルムガンドルが声を上げた。


「これでは、杖が出てきてもどちらかの契約が必ず不履行になるぞ」

と、ジークフリートが姉弟を交互に見て、無表情なまま深刻な事態を告げた。






「わたしはぜったいに、黒のレイヴンなんかに杖をゆずらないんだから」

王の執務室を後にして三人で廊下を歩きながら、キリはぶーぶーと文句を言った。

「何の属性か知らないけど、霧の属性のわたしほど杖を必要としてるはずないもん。
だいたい、がんばったのはわたしたちなのに!
それなのにヴェズルングの杖を横どりするような契約を王様と結んでるなんて、ずうずうしいやつ!」

キリはほっぺたをふくらませて、

「レイヴンに杖を渡したら、ゆるさないからね!
ラグナードも王様もこの王家も、みーんな呪ってやるからね!」

不穏きわまりないセリフを口にしているのだが、
そのかわいらしいおこり方に、ラグナードはくすりと笑う。

「その前に、肝心のヴェズルングの杖の行方がわからないんだがな」

ラグナードはキリのピンクの髪を見下ろして、

「まあ──杖が見つからなければ、レイヴンとかいう者はあきらめて帰ってしまうかもしれないな。
そうなれば、杖はおまえのものになるが……」

「そっか、そうだよね」

キリがこくこくとうなずいて、ラグナードはほくそ笑んだ。

「おまえが杖が見つかるまであきらめないというなら、いつまででもこの城に滞在することを許可してやる。
そういう約束だったからな」

悪魔のようにささやいたラグナードを見上げて「うん」と、キリは無邪気にほほえんだ。

「ありがとね、ラグナード」


思惑通りに事が運んで、ラグナードは満足する。


「杖の詳細については宝物庫の管理人に聞け」とイルムガンドルは言っていた。

杖がどういうことになっているのか、早めに確かめておく必要があるが、


ともかくこれで、当面キリをカーバンクルスにとどめておくことは成功したのだ。