「わかっている」
思わず反論しようと口を開きかけたラグナードをさえぎって、イルムガンドルはなぜか困惑気味の顔になった。
「疑っているわけではない。行動はめちゃくちゃだが、ラグナードがそんな嘘をつく人間ではないことは私とて理解している」
ようやく家族らしい温かな言葉が聞けて、キリは笑顔になる。
「しかし、パイロープの異変をまさかおまえたちが……」
イルムガンドルはそんなことをつぶやいて、
何事かを考えこみ、執務机の引き出しから一通の書状を取り出した。
真っ黒な羊皮紙だった。
押された封蝋はすでに切られていたが、
丸められた羊皮紙の端に残った蝋の色もまた、夜のような黒。
黒い封蝋には、カラスをかたどった刻印が押されていた。
女王はその手紙を広げて、中に書かれた文字を三人に見せる。
「一ヶ月ほど前に国王宛でカーバンクルスに届いた手紙だ」
と、彼女は言った。
「パイロープには『天の人』が居座っていると書いてある」
灰色の瞳がジークフリートを一瞬だけ映して、
ジークフリートが目を見開いた。
ラグナードとキリは息をのんで、顔を見合わせた。
「報酬としてガルナティスに伝わる『ヴェズルングの杖』を譲り受けることができるならば、その天の人を殺してやろうという内容だ」
「ヴェズルングの杖を!?」
杖をほしがっていたキリが、声を上げた。
「天の人を殺してやろうだと!?」
パイロープに居座っていた当の本人であるジークフリートもまた、大胆不敵なその宣言に目をむいた。
「いったい誰がその書状を……?」
険しい表情でラグナードがたずねて、
女王は黒い手紙をラグナードによこした。
「差出人には【渡鴉(わたりがらす)】とある」
「【渡鴉】ってまさか──【黒のレイヴン】!?」
イルムガンドルの口から放たれた名前を耳にして、
キリがびっくりしたように、ラグナードの手にある黒い手紙をのぞきこんだ。
黒い羊皮紙に、白抜きのリンガー・レクスが並んでいる。
普通の手紙とはあべこべに。
ラグナードは不吉な既視感のようなものを覚えながら、闇のように真っ黒なその手紙に書かれた内容を読んだ。
貴国には現在なにかお困りのことがあるだろう。
手を貸しても良いが、報酬として国に伝わるヴェズルングの杖を譲り受けたい。
パイロープに居座っているのは天の人だ。
普通の人間の手に負える相手ではないということを考慮の上、もしもこれを殺してほしいならば返事を。
白抜きのリンガー・レクスで書かれていたのは、要約すればこんな内容だった。
差出人は確かに「渡鴉」となっている。
思わず反論しようと口を開きかけたラグナードをさえぎって、イルムガンドルはなぜか困惑気味の顔になった。
「疑っているわけではない。行動はめちゃくちゃだが、ラグナードがそんな嘘をつく人間ではないことは私とて理解している」
ようやく家族らしい温かな言葉が聞けて、キリは笑顔になる。
「しかし、パイロープの異変をまさかおまえたちが……」
イルムガンドルはそんなことをつぶやいて、
何事かを考えこみ、執務机の引き出しから一通の書状を取り出した。
真っ黒な羊皮紙だった。
押された封蝋はすでに切られていたが、
丸められた羊皮紙の端に残った蝋の色もまた、夜のような黒。
黒い封蝋には、カラスをかたどった刻印が押されていた。
女王はその手紙を広げて、中に書かれた文字を三人に見せる。
「一ヶ月ほど前に国王宛でカーバンクルスに届いた手紙だ」
と、彼女は言った。
「パイロープには『天の人』が居座っていると書いてある」
灰色の瞳がジークフリートを一瞬だけ映して、
ジークフリートが目を見開いた。
ラグナードとキリは息をのんで、顔を見合わせた。
「報酬としてガルナティスに伝わる『ヴェズルングの杖』を譲り受けることができるならば、その天の人を殺してやろうという内容だ」
「ヴェズルングの杖を!?」
杖をほしがっていたキリが、声を上げた。
「天の人を殺してやろうだと!?」
パイロープに居座っていた当の本人であるジークフリートもまた、大胆不敵なその宣言に目をむいた。
「いったい誰がその書状を……?」
険しい表情でラグナードがたずねて、
女王は黒い手紙をラグナードによこした。
「差出人には【渡鴉(わたりがらす)】とある」
「【渡鴉】ってまさか──【黒のレイヴン】!?」
イルムガンドルの口から放たれた名前を耳にして、
キリがびっくりしたように、ラグナードの手にある黒い手紙をのぞきこんだ。
黒い羊皮紙に、白抜きのリンガー・レクスが並んでいる。
普通の手紙とはあべこべに。
ラグナードは不吉な既視感のようなものを覚えながら、闇のように真っ黒なその手紙に書かれた内容を読んだ。
貴国には現在なにかお困りのことがあるだろう。
手を貸しても良いが、報酬として国に伝わるヴェズルングの杖を譲り受けたい。
パイロープに居座っているのは天の人だ。
普通の人間の手に負える相手ではないということを考慮の上、もしもこれを殺してほしいならば返事を。
白抜きのリンガー・レクスで書かれていたのは、要約すればこんな内容だった。
差出人は確かに「渡鴉」となっている。



