二人がどういうやりとりをしているのかわからず、


キリは、


激怒している女王の真っ赤な髪と

ラグナードのあせたような色合いの灰色のブロンドとを見くらべた。



熊でも逃げ出すのではないかという姉の剣幕にも、ラグナードは平然と──

と言うよりも傲然と、細いあごを上げた。


「パイロープを奪還して参りました」


このタイミングで、

ラグナードは誇示するかのように告白した。


「なに──?」


弟が何を言ったのか──

さすがに彼の口からその地名が飛び出すとは思いもせず、
イルムガンドルがとまどったように赤い眉を寄せた。


「この半年、世界中の魔法使いを訪ね、パイロープの異変を解決できる力を持った者を探しておりました」


ラグナードはキリとジークフリートを示した。


「この者らは、我が国に力を貸してくれた魔法使いです。

彼らとともにパイロープに赴き、白い怪物を退治し、氷に閉ざされたパイロープ山に火を取り戻して参りました」


堂々とそう言って、

「これで文句はないでしょう」

と、ラグナードは吐き捨てた。



そっ、そんな言い方したら──



キリは、国王の顔におそるおそる目をやった。



よくやったとほめてもらえる──



わけがなかった。


「このばかものが……!」

イルムガンドルがぎりっと奥歯を鳴らした。

「貴様はそれで英雄にでもなったつもりかッ」

火に油を注いだように、鋼色の瞳には怒りが燃えあがる。


やっぱり──!

キリは泣きそうになった。

せっかくがんばったのに、だいなし……!


「手柄を焦って、己の立場を自覚せずに単独行動に走り他の者を振り回すなど、人の上に立つ者のすることではない! 軽挙妄動も甚だしいぞ!」

「手柄だと!?」

ついにラグナードも声を荒げた。

「臆病風に吹かれた腰ヌケどもと会議をくり返すことが、姉上の言う立場を自覚した行動ですか!?
三百人の兵を失っているのに、じょうだんじゃない!」

頭に血が上ったせいか、
呼びかけも「陛下」ではなく、「姉上」になっていた。


「俺は手柄がほしかったわけじゃない!」


そう主張する弟を見つめて、

イルムガンドルは深いため息をはき出して、ふたたびイスに腰を下ろした。


「このようなやり方をすれば、周囲はそう見てはくれぬとよく覚えておけ」


そんな冷たい言葉を放って、

国王と王子の姉弟ゲンカを前にして立ちつくしているキリとジークフリートを、イルムガンドルは値踏みするかのようにジロジロとながめた。


「……本当におまえたちがパイロープの異変をおさめたのか?」


キリはまたしても泣きそうになった。

命がけでがんばったのに、あんまりの言葉だった。


活躍をぶちこわしにした王子様を、キリはうらめしい思いで見上げた。