紅の夕日の中で、
狼と炎を象ったガルナティスの旗が、空の上の強い風に吹かれてひるがえっている。
地上から延々続くらせん階段の最後の浮遊岩石の浮島は、城門と跳ね橋でつながっていた。
大抵、城の周囲には堀がめぐらせてあるものだが、
稼動梁を備えたこの跳ね橋の下は、はるか五百メトルム下の怪魚が待つ水面まで直通である。
高所恐怖症でなくとも、跳ね橋の両側に申し訳程度に取り付けられた鉄柵は頼りなく見える。
ラグナードが騎杖を進め、開け放たれたままの門をくぐる。
側塔や張り出し陣がにわかに騒がしくなる。
ぺヒナーゼを見上げて門をくぐりながら、キリは少し違和感を感じた。
「このお城の壁の上って、ガタガタになってないんだね」
キリが見たことのある第五大陸の貴族の城と違って、黒い石で造られた城壁や塔の上は、全て鋭い傾斜を持つ赤いスレートぶきの屋根で覆われている。
先刻目にした王都を囲む高い壁や塔も、同じように上は屋根で覆われていた。
「おまえが言うのこぎり型の狭間を備えているのは、古い時代の姿が伝わっている城だ。
今のエバーニアではまず見ないな」
門を抜けて左に折れ、門衛棟や奉公人の住居を横目に杖を進めてラグナードはそう言った。
「どうして?」
「敵の戦闘騎杖が門や塔の上に着陸できないようにだ」
あっそうか、とキリは納得した。
防衛の要である塔や城壁を、空から占拠されてしまったのではお話にならない。
外壁の内側には、空の上だというのに家畜の小屋までが並んでいた。
しばしの後、
落とし格子がしっかりと降りた内壁の城門に騎杖がたどり着くと、門の前を固めていた重武装の衛兵がさっと両脇によけた。
胸壁を慌ただしく駆ける足音が聞こえ、
ガラガラと音を立てて直ちに格子が引き上げられる。
門の内側には整列した兵士たちが待ちかまえていた。
整然と両側に並ぶ兵士たちのまん中に、ラグナードが杖を降ろした。
キリは目を丸くした。
「ラグナード殿下! お戻りに」
と、焦げ茶のヒゲをたくわえた隊長らしき壮年の男が歩み出て声をかけた。
「でんか……?」と、キリは男の言葉をくり返して、目を何度もしばたたいた。
「ああ。出迎えご苦労」
ラグナードはそっけなく言って身軽に杖から飛び降り、周囲を見回して軽く眉をしかめた。
「俺の召使いはどうした?」
「はっ! ええ、その、それが……」
「どうしてこの場にいない?」
「ええと、その……」
たちまちに不愉快そうな顔になるラグナードの前で、ヒゲの隊長がうろたえて口ごもる。
キリはそろそろと杖を降りた。
ジークフリートも後に続く。
すぐに駆けつけてきた奉公人が、杖をていねいに持ち上げていずこかへと運んでいった。
狼と炎を象ったガルナティスの旗が、空の上の強い風に吹かれてひるがえっている。
地上から延々続くらせん階段の最後の浮遊岩石の浮島は、城門と跳ね橋でつながっていた。
大抵、城の周囲には堀がめぐらせてあるものだが、
稼動梁を備えたこの跳ね橋の下は、はるか五百メトルム下の怪魚が待つ水面まで直通である。
高所恐怖症でなくとも、跳ね橋の両側に申し訳程度に取り付けられた鉄柵は頼りなく見える。
ラグナードが騎杖を進め、開け放たれたままの門をくぐる。
側塔や張り出し陣がにわかに騒がしくなる。
ぺヒナーゼを見上げて門をくぐりながら、キリは少し違和感を感じた。
「このお城の壁の上って、ガタガタになってないんだね」
キリが見たことのある第五大陸の貴族の城と違って、黒い石で造られた城壁や塔の上は、全て鋭い傾斜を持つ赤いスレートぶきの屋根で覆われている。
先刻目にした王都を囲む高い壁や塔も、同じように上は屋根で覆われていた。
「おまえが言うのこぎり型の狭間を備えているのは、古い時代の姿が伝わっている城だ。
今のエバーニアではまず見ないな」
門を抜けて左に折れ、門衛棟や奉公人の住居を横目に杖を進めてラグナードはそう言った。
「どうして?」
「敵の戦闘騎杖が門や塔の上に着陸できないようにだ」
あっそうか、とキリは納得した。
防衛の要である塔や城壁を、空から占拠されてしまったのではお話にならない。
外壁の内側には、空の上だというのに家畜の小屋までが並んでいた。
しばしの後、
落とし格子がしっかりと降りた内壁の城門に騎杖がたどり着くと、門の前を固めていた重武装の衛兵がさっと両脇によけた。
胸壁を慌ただしく駆ける足音が聞こえ、
ガラガラと音を立てて直ちに格子が引き上げられる。
門の内側には整列した兵士たちが待ちかまえていた。
整然と両側に並ぶ兵士たちのまん中に、ラグナードが杖を降ろした。
キリは目を丸くした。
「ラグナード殿下! お戻りに」
と、焦げ茶のヒゲをたくわえた隊長らしき壮年の男が歩み出て声をかけた。
「でんか……?」と、キリは男の言葉をくり返して、目を何度もしばたたいた。
「ああ。出迎えご苦労」
ラグナードはそっけなく言って身軽に杖から飛び降り、周囲を見回して軽く眉をしかめた。
「俺の召使いはどうした?」
「はっ! ええ、その、それが……」
「どうしてこの場にいない?」
「ええと、その……」
たちまちに不愉快そうな顔になるラグナードの前で、ヒゲの隊長がうろたえて口ごもる。
キリはそろそろと杖を降りた。
ジークフリートも後に続く。
すぐに駆けつけてきた奉公人が、杖をていねいに持ち上げていずこかへと運んでいった。



