「要するにカーバンクルスを落とすなら、天空船を使うか兵糧攻めにするしかないということだが──」
宙に浮かぶ城から流れ落ちる水が生み出す湖を見渡し、大国の王子は鼻を鳴らす。
「地上を包囲しても、カーバンクルスの下で長期にわたる野営はできない」
「どうして?」
「霧が発生するんだ。湖のおかげでな」
「なるほど」
よく考えられていた。
千年間、どんな国の侵攻も許さなかった鉄壁の要塞だけはある。
戦闘用の騎杖は平地での白兵戦では絶大な効力を発揮するが、城攻めとなるとその利は限られる。
動きが遅く小回りの利かない天空船で兵を送り込むしかないとなると、攻める側は苦労するだろう。
「城に上がるぞ、翼を消せ」と、ラグナードは都で騒ぎを引き起こした迷惑な天の人をにらんだ。
「じょ……じょうだんはやめてくれ!」
ジークフリートは激しく首を横に振って嫌がった。
「翼を消せるわけがねーだろ! 死ぬ!」
「冗談を言っているのはきさまだ! ふざけるな!
あの城に住む者も、背中に翼など誰も生えてないぞ!」
「地の人が異常なんだ! 翼がないなら大地の上に住めばいいだろ」
「これは命令だ。翼を消せッ」
「俺に自殺しろとでも言うのか! そんな命に関わる命令は聞けん!」
結局、
ジークフリートは断固として拒否して翼を消そうとせず、
ラグナードは空中の宮廷に住む貴族たち相手に、都でしたのと同じ苦しい説明をする覚悟を決めるはめになった。
あんなウソを教養ある貴族や王族が信じるとはとても思えなかったが。
流れ落ちる水に近づき、
らせん階段を横目に見ながら飛行騎杖が垂直に上昇する。
たちまち五百メトルム上空の、巨岩の上にそびえる城門の前へとたどり着き、ラグナードは杖を静止させた。
「なんだかかわいいお城」
キリがうれしそうに言って、ラグナードは拍子抜けした。
「……かわいい?」
立ち並ぶ塔の、先のとがった赤いスレート屋根と、
黒い石で作られた城の壁とを見上げて、
「ベリーが乗ったチョコレートのケーキみたい」
と、キリは言った。
「この城を見てそんなセリフを口にしたのはおまえがはじめてだな」
近寄りがたい城の外観からはかけ離れた感想だ。
「気に入ったか?」
「うん。こわいお魚がいるけど、湖も滝もきれいだし」
「だったら──ずっとここに住むこともできるぞ」
ラグナードは少女の瞳をじっと見つめる。
キリは眉をよせた。
「えー、やだよ。わたしはヴェズルングの杖をもらったら帰るんだから」
ぷうっとほっぺたをふくらませるキリに、ラグナードはわずかに顔をゆがめて、
「そうか。ならば、仕方がないな」
冷ややかな声音で小さくそうつぶやいた。
宙に浮かぶ城から流れ落ちる水が生み出す湖を見渡し、大国の王子は鼻を鳴らす。
「地上を包囲しても、カーバンクルスの下で長期にわたる野営はできない」
「どうして?」
「霧が発生するんだ。湖のおかげでな」
「なるほど」
よく考えられていた。
千年間、どんな国の侵攻も許さなかった鉄壁の要塞だけはある。
戦闘用の騎杖は平地での白兵戦では絶大な効力を発揮するが、城攻めとなるとその利は限られる。
動きが遅く小回りの利かない天空船で兵を送り込むしかないとなると、攻める側は苦労するだろう。
「城に上がるぞ、翼を消せ」と、ラグナードは都で騒ぎを引き起こした迷惑な天の人をにらんだ。
「じょ……じょうだんはやめてくれ!」
ジークフリートは激しく首を横に振って嫌がった。
「翼を消せるわけがねーだろ! 死ぬ!」
「冗談を言っているのはきさまだ! ふざけるな!
あの城に住む者も、背中に翼など誰も生えてないぞ!」
「地の人が異常なんだ! 翼がないなら大地の上に住めばいいだろ」
「これは命令だ。翼を消せッ」
「俺に自殺しろとでも言うのか! そんな命に関わる命令は聞けん!」
結局、
ジークフリートは断固として拒否して翼を消そうとせず、
ラグナードは空中の宮廷に住む貴族たち相手に、都でしたのと同じ苦しい説明をする覚悟を決めるはめになった。
あんなウソを教養ある貴族や王族が信じるとはとても思えなかったが。
流れ落ちる水に近づき、
らせん階段を横目に見ながら飛行騎杖が垂直に上昇する。
たちまち五百メトルム上空の、巨岩の上にそびえる城門の前へとたどり着き、ラグナードは杖を静止させた。
「なんだかかわいいお城」
キリがうれしそうに言って、ラグナードは拍子抜けした。
「……かわいい?」
立ち並ぶ塔の、先のとがった赤いスレート屋根と、
黒い石で作られた城の壁とを見上げて、
「ベリーが乗ったチョコレートのケーキみたい」
と、キリは言った。
「この城を見てそんなセリフを口にしたのはおまえがはじめてだな」
近寄りがたい城の外観からはかけ離れた感想だ。
「気に入ったか?」
「うん。こわいお魚がいるけど、湖も滝もきれいだし」
「だったら──ずっとここに住むこともできるぞ」
ラグナードは少女の瞳をじっと見つめる。
キリは眉をよせた。
「えー、やだよ。わたしはヴェズルングの杖をもらったら帰るんだから」
ぷうっとほっぺたをふくらませるキリに、ラグナードはわずかに顔をゆがめて、
「そうか。ならば、仕方がないな」
冷ややかな声音で小さくそうつぶやいた。



