キリと悪魔の千年回廊

森の木々より遙かに高く──

空に浮く巨大な軽鉱石の山から流れ落ちる水。


地上に届くころには霧雨のように細かな金の水滴となって、夕日にまばゆくきらめきながら湖に降りそそぐ天空の滝があった。



その巨大な浮遊岩石の山の上に建築された、黒と赤の美しい城。



難攻不落の要塞としても名高いガルナティスの王城──

──空中宮殿カーバンクルスである。



間近で見上げると、

王都から遠目に見たときとは比べものにならない荘厳な城だった。



「どのくらいの高さにあるの?」

「城があるのは地上五百メトルム弱というところだな。
浮遊岩石の底部までは三百メトルムほどだ」

キリがたずね、
ラグナードが説明して、
ジークフリートが杖の手すりをしっかりと握り直した。


「お城に用がある人って、五百メトルムもあの階段を登るの?」

「そうだ」


湖の岸からは石造りの橋が桟橋のように湖へと突き出し、そこから空中へと階段がのびている。

城を乗せた岩山の底から落ちる水の柱を囲むように、
小さな軽鉱の岩をつないで、右回りのらせん状に階段は上空の城門まで続いていた。


「うわあ、大変そう……」

キリが知るゴンドワナ大陸の城の中にも、山の上に建造されたものはあったが、さすがに五百メトルムも山道を登るような城は見たことがなかった。


「馬車も通れなさそうだし、荷物を背負って登るの?」

「荷物が多い場合は、上に──」と、ラグナードは階段を結ぶ小岩よりもやや大きな浮遊岩石を指さした。

「天空船の港がある」


城が建つ巨岩のすぐそばに並んで浮いた岩からは、城へと橋がかけられていた。


「ほんとだ」

「地の人は翼もないのに、落ちたらどうするんだ?」


高所恐怖症の天の人が、頼りない階段や橋を見上げてぶるぶるとふるえた。


「当然、死ぬだろうな」

「下は湖だから、低い場所からなら落ちてもだいじょうぶなんじゃないの?」


金色に輝く湖を見下ろして、ラグナードは薄く笑った。


「あの水の中にはエルドラドが放たれている」

「えっ」


キリは目をこらして水面を見つめた。


単に夕日を反射しているだけかと思われた水面には、キラキラとまぶしく光を放つ巨大な黄金の魚たちのうろこがうごめいていた。


「人間が落ちればたちまち食われて骨も残らない」


エルドラドは、どう猛な肉食の怪魚である。

水に落ちた獣を襲って食べる習性があるため、城の周りの堀などに防衛のために放たれることも多い。


「城に攻め入ろうと他国の軍が押し寄せても、階段を落とせば魚のエサというわけだ」

と、ラグナードは難攻不落の城の説明をした。